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第9話 助手席に片思いの相手を乗せて
瀬那のアパートから二人で出ると、陽樹は勝手に拝借した瀬那の部屋の鍵を元あった電気メーターのボックスへ戻した。これまた勝手に空いている駐車スペースに停めていた陽樹の車に近づくと、ポケットのキーに反応してドアロックが外れた。
「いつ見ても凄いね。近づくだけで鍵が開くの」
陽樹の愛車のキーは、微弱な電波を発していて、近づくと自動でロックが外れる最近出た車だ。車種にこだわりがあったわけでは無く、環境に配慮されている最近の車が良かったのだ。
「ドアも自動で開くよ」
自動で、といいながら陽樹は助手席の扉を自分の手で開けて、瀬那を乗せた。エスコートしただけだ。何回やったか知らないノリだけど、瀬那は否定から入らない。
「陽樹の車は凄いね。ありがとう!」
一度陽樹の話にノッてから、陽樹にお礼を言ってくれる。瀬那は子供の相談に乗っているときもそうで、小学生とかが相手だと、流石にそんな訳あるかと言いたくなるような話をしてくる奴もいるのだが、瀬那は最初の相づちで絶対に否定から入らないのだ。
社会的または道徳的に間違っていたらハッキリ言うけれど、その前に、そのような行動や考えに至ったという事実を受け入れる。この辺が難しいから、陽樹は悪ガキをとっ捕まえる担当で、瀬那が話しを聞いたり宥めたりする担当に分けられているのだ。
陽樹が運転席に乗り込むと、早速瀬那がシートを倒してエアー枕を首の後ろに置き、膝にブランケットを掛けていた。
「着いたら起こすよ」
「ありがとう。でも少し手前で起こして欲しいな。髪の毛梳かしたいから」
「了解。それじゃ、出発進行」
駐車場を出ると、民家の多い通りを曲がりくねりながら、そのまま国道に合流する。前もってスマホの地図で調べたところによると、白間学園があるのは東京だが、都心でなく、埼玉と山梨の県境に近い方のようだ。つまり、今回の長距離運転は海を眺めることなく、瀬那と陽樹の住む神奈川県の西側から、東京都の西側へ、国道を北上していくことになる。
高層ビル群を長時間走り続けて、山に差し掛かったときに、助手席で寝ていた瀬那が何事かと目を覚ました。
「東京じゃないの」
「東京だよ。学園この山の上に建ってるから」
「お金持ちの学園なのに?」
「何でも世俗と断ち切らせて自然に溢れた環境で勉学に励んでもらうためらしいよ」
「Wi-Fiあるかな」
「流石にあるだろ。でも学園に着くまで、一回スマホ圏外になるかも」
「大丈夫、陽樹と話してればスマホなくても飽きないよ」
「そっか」
国道から離れて細い山道を徐々に登っていく。この先に白間学園があると一目で分かる、最近舗装された様な道路。凸凹がない道路を、陽樹の車が駆け抜けていく。
「見えてきたな」
山道の中、木々の合間に近代的なビルディングが覗いている。走るにつれて、木々が開けて、レンガ敷きの洒落た舗装へ切り替わった。ここから学園の私有地になるのだろう。
「わあー! 凄いよ」
瀬那がフロントガラスの向こうを指さしてはしゃいでいる。
木々をかき分けて見えてきたのは、広大な敷地。城壁のような塀が、高さ2、3メートルはあるだろう。敷地をぐるりと囲んでいるのだが、そこからでも高いビルや、ホテルの様な施設が様々見える。
「リゾートに来たみたい」
「入り口どこだろう」
陽樹は前のめりになりながら、塀に沿って走った。いくら走っても高い塀に切れ目がない。かなりの距離走ったところで、塀の角を曲がり、更に走り進めると、ようやく巨大な門が見えてきた。塀に沿って車止めのブロックが置いてあり、職員の物と思われる車が並んでいる。
「この辺に停めるか」
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