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第10話 学園に到着
開いている駐車スペースに停めると、陽樹は叔父に電話をかけた。薄型で画面サイズの小さいスマートフォンは、同年代の平均より小柄な陽樹の手にピッタリ収まるのだ。
ぷるるる、ぷるるる
叔父が電話に出るのを待つ間、視線を感じて瀬那の方をちらりと見ると、陽樹の横顔をじっと見られていた。口を尖らせて変顔をすると、瀬那が手で口を隠しながらクスッと笑う。
そんなことをしていると叔父と電話が繋がった。慌てて真顔に戻る陽樹。
「や、やあ陽樹! 着いたのかい」
「もしもし今朝ぶり」
電話に出た陽樹の叔父は、ジョギングを終えたばかりのように息を切らしている。不思議には思ったが、とにかく今は理事長室までどうやって行けばよいか、車はここに停めておいて良いかなどを聞きたかった。話しを早く進めなければ、この学園に潜む悩める学生から話しを今日中に聞き終えることができない。
高校生と一緒に寮に泊まるのも勘弁だし、叔父の家に停めてもらってあまり関わりの無い叔父一家にお世話になるのも御免被りたい。叔父は入り婿だから、陽樹は叔父一家とまともな会話をしたこともないし、名前もよく知らない。
「ねえ叔父さん。職員駐車場がある門の前に来たんだけど、ここからどうやって理事長室に行けば良い?」
瀬那が目を丸くしてこっちを見てくる。言いたいことは分かる。散々瀬那の前で叔父のことを叔父貴と呼んでいたのに、本人の前では叔父さんって呼んでいるのかと言いたいのだろう。陽樹は恥ずかしくなって瀬那から顔をそらす。
「……っ、それは裏門だね。……迎えを遣るから、裏門の前で少し待っていてくれ」
電話先の叔父はまだ息を切らしている。というか、緊張している?
叔父からは学園でトラブルがあると聞いている。まともに会話できないほど追い込まれた状況なのかもしれないと陽樹は心配した。二人の通話を聞いていた瀬那も、心配の面持ちをしている。
「叔父さん、大丈夫?」
「すまない陽樹。面倒を掛けてしまって。なんと言ったらいいか。私が不甲斐ないばかりに」
「気にしないでよ。叔父さんにはいっぱい遊んでもらったし、世話になったんだから」
お互い様だ、と言うと、電話先の叔父は震えた声で、ありがとうと言ってきた。
陽樹と一緒にゲームで遊んで、陽樹に勝って大喜び、負けたらゲームのせいにする。そんな叔父が結婚して入り婿になると知ったときには陽樹は驚きを隠せなかった。それが更に中高一貫で私立の進学校の理事長に就任したと聞いたときは、心配していたのだ。
できの良い父親や兄貴に相談しづらい気持ちは、同じ次男だから陽樹にも分かった。
「じゃあ門の前で待っているから、いったん電話切っても大丈夫?」
「ああ、すまない」
電話の向こうの様子を伺ってから電話を切る。瀬那はトートバックを肩に掛け、服装や髪型を整えて、準備万端といった様子だ。キリッとした表情をしている。
陽樹もリュックを背負った。山の中で社内に貴重品を置いて長時間空けるのは危機管理に欠けると思ったからだ。
「よし、行こう」
「うん。まずは陽樹の叔父さんから、ゆっくり話を聞こうね」
車から降りて裏門の前に立つ。広い敷地内に校舎と思わしきビルが二棟、途中の階がガラス張りの渡り廊下で繋がっている。近くにホテルの様な洒落た建物が建っていて、更にドーム型の建物がくっついている。遠くに似たような建物群が見えるから、それが中等部、手前に見えている方が高等部だろう。他にも細々と建物があるが、ガラス張りかレンガ調の壁で、学校というイメージからは離れていた。
「誰か来るよ」
裏門へ続く長いレンガ道を、白い格好をした誰かが近づいてくる。米粒ほど小さいが、だんだんこちらへ近づいてくるにつれ、ブレザーの制服を着ている、生徒であることが分かった。
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