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第11話 生徒会副会長

 フレームレスの眼鏡をしている生徒は、肩に着かないくらいの黒髪が全く跳ねていない、前髪が大体七三わけみたいなのに、ギャグっぽくならない美少年だ。線が細く、透き通るほど白い肌をしている。肩についた桜の花びらをササッと手で払い、こちらにお辞儀してきた。 「お待ちしておりました。私、白間学園高等部生徒会副会長のゆきと申します」  爽やかな笑みを浮かべているが、おそらく笑っていないだろうというか、凄く疲れていそうだ。頑張って心を無にしている感じなのが、忙しい陽樹の兄が親戚のパーティーで見せる笑みに似ていると陽樹は思った。叔父曰く学園の生徒間トラブルが手に負えないらしいから、生徒会となれば苦労しているのだろう。 「こんにちは、赤座です。こちらは甘木」  陽樹は瀬那を揃えた指先で指す。 「甘木です。よろしくお願いします」  軽くお辞儀する瀬那。 「事情は理事長から伺っています。どうぞこちらへ」 「それは話しが早い。よろしくお願いします」  副生徒会長はレンガで舗装された道の先頭を歩く。敷地が広いから、静かな時間が続いた。静寂を破るように、瀬那が彼へ話しかける。 「お疲れですね。僕たちの前では、何も無理に笑わなくてもいいんだよ」  慈悲の籠もった声色で、瀬那が言う。もう悩み相談は始まっているのだ。ふと立ち止まった副生徒会長は、振り返ると、真顔で瀬那を見ていた。 「お気遣いありがとう」  突然、笑顔が剥がれて驚いた陽樹。育ちが良いだろうし、丁寧な振る舞いに気を遣っていたのかもしれないが、そんな余裕はとっくに無くなっていたのだろう。  瀬那は彼の変貌に気にしていないのか、気にしていないフリをしているのか、変わらず微笑んでいた。  先頭の副生徒会長に着いていき、陽樹と瀬那は、先程遠くから見ていたガラス張りの二棟立てビルにたどり着いた。自動ドアが開いて中へ入ると、靴箱がないので陽樹は辺りを見回した。瀬那が隣で「自動ドアだよ」と囁いてくるが、自動ドアくらいあるだろうと陽樹はスルーした。しかし瀬那と一緒に通っていた小・中学校が手動のドアだった様な気もするから、陽樹は大学の自動ドアに見慣れただけかもしれないと思った。 「靴はそのまま」  外靴のまま、副会長は校内へ入っていった。二人もそれに続く。目の前にエスカレーターがあったが、数メートル先のエレベーターに乗り込む。二面がガラス張りになっていて、外が見えるようになっている。高所恐怖症が乗ったら卒倒しそうだ。  1階から8階までボタンがあるが、ランプが点灯しているのは7階までだ。副会長は制服のポケットから金色のカードを取り出すと、カードリーダーの様なくぼみにカードをスライドさせた。8階のボタンが点灯する。副会長が8階を押して、エレベーターの扉が閉じ、ゆっくりと上昇していく。  エレベーターの上昇と共に、外の景色がよく見える。外で生徒がたむろしているのが見える。日曜で授業がないから自由に過ごしているのだろう。  一瞬、その生徒たちがいる辺りに火柱が上がって消える。 「ん?」  陽樹は目を擦った。

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