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第12話 摩訶不思議
見間違いかと思ったが、8階に着く直前に、もう一度火柱が立った様に見えた。丁度建物の骨組みに阻まれてよく見えなかった。
「外で生徒が火遊びをしているみたいだ。一度下へ降りましょう」
陽樹は副生徒会長に声を掛ける。瀬那は慌ててガラス張りのエレベーターから外を覗いている。
「ほんとだ! 大変。マッチとかライターのレベルじゃないよ」
「生徒の喧嘩を止めるのは風紀委員会の仕事です。生徒会の業務外だ」
これがこの学園の問題の一端だろう。大人の社会の様に役割分担がキチンとされているが、委員会を運営しているのは高校生たちだから、融通が利かない。困っている人が放置されやすい状態になっている上に、この副会長は特に冷徹な性格をしている様だ。
「副会長の仕事でなくても、俺らの仕事ではあります」
「は?」
副会長は珍妙な物を見る目で陽樹を見てきた。なんか話が噛み合っていないような気がするが、もしかして叔父はただ案内するようにとしか説明しなかったのだろうか。来客が突然生徒同士の喧嘩を制止しに行くと言い出したら、確かにビックリするだろう。
「あ、生徒が集まってきたよ」
「教師は何してんだよ。お前! いいからエレベーター下に降ろせ」
副会長は返事をしない。
「ああ、もう。瀬那、階段で降りよう」
「この階はエレベーターと非常階段以外、行き来する手段はありません」
「非常階段はどこ」
陽樹が校内を見渡して、非常口の目印である非常灯を探していると、突然身体が紐状の物に締め付けられる感覚に襲われた。
「なんだっ!」
「うわぁん」
副会長の身体から植物の蔓みたいな何かが伸びてきて、陽樹と瀬那は縛り上げられていた。なんだこの蔓は、なぜ目の前の生徒は身体から植物の蔓が出てくるのか。幻覚か?
「私は私の役目を遂行しなければなりません。ただでさえ生徒会は忙しいんです。よそ見していないで着いてきなさい」
胴体に巻き付けられた謎の蔓を支柱にして身体を持ち上げられるのは、内臓が口から出そうな苦しさがある。あと、状況が何一つ分からない。瀬那の方を見る余裕もなく、どこかの開いた扉の中に放り込まれた。ようやく蔓から解放された。
「それでは、これで。失礼いたしました」
「ありがとう、副生徒会長くん」
腹の痛みに擦りながら起き上がると、陽樹が見慣れた叔父が座っていた。ここは理事長室か。部屋の端にもう一人、秘書の様な人が立っている。
突然の恐怖を味わわせられた元凶の副生徒会長は、扉を閉めてとっとと去って行った。
「大丈夫だったか瀬那」
陽樹は腹をさすっている瀬那に駆け寄る。
「え、大丈夫」
目を丸くしている瀬那。何が起きたか分からないという顔。陽樹も同じ気持ちだ。
「大丈夫だった? 陽樹、瀬那くん」
叔父が床に膝をついて二人を心配してくれる。若々しい叔父だったが、今は少しやつれて老けて見える。
「叔父さん、あれは何?」
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