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第13話 新米理事長

「分からない、分からないんだよ! みんな手から蔓を出したり、水を出したり、火を出したり、ハーッ! みたいなのを出したりしてさ」  興奮して話す陽樹の叔父だが、言いたいのは、副会長が蔓を出したようなことを、他の生徒もするということだろう。 「前の理事長に何か聞いていなかったの。変な生徒を集めている学校だとか」  変で済ませていい事象ではないが。 「お義父さんからは何も聞いてないよ、美由紀さんも何も言ってなかった」  美由紀さんは叔父の結婚相手、つまり奥さんだ。代々白間学園を経営する白間家の人間が、現理事長の叔父に何も事情を説明しなかったことになる。 「前理事長に言ってみた? 親御さんに聞くとか、警察に相談するとか」 「こんなこと言ったって誰も信じちゃくれないよ! 頭おかしいと思われて終わりだぁ」  陽樹の叔父は頭を抱えた。ワックスでなでつけられた黒髪がボサボサになっている。 「不思議な力を持っていることが知られたら、実験施設に連れて行かれるかもしれないね」  瀬那がまた怖いことをいうものだ。叔父が更に困ってしまった。 「え、で、叔父さん。俺たちにどうしろって?」 「生徒達も、今年に入って使えるようになったんだ。この学校の生徒は要人のご子息が多いから、元から教師より生徒の方が権力を持っているというか偉かったんだけど、生徒が変な力を持っているから、怖くて逆らえなくなっちゃったんだよう」  四十近い大の大人が泣きべそをかいている。この事態の全ての責任を背負わされたら、陽樹も幾つだろうが泣くと思う。 「詳しく最初から教えてもらってもいいですか。落ち着いて、深呼吸しましょう」  瀬那が俯く叔父の前に片膝をついて言う。差し出した手が震えている。  陽樹は必死に考えていた。どういう理由があれば、この様な現象が起こりうるのか。エクソシストを呼べば良いのか、お祓いを頼むべきなのか。宇宙研究施設に相談すればいいのか、昔テレビに出ていた自称超能力者に連絡すれば良いのか。それに集団幻覚という可能性が残っている。陽樹が長い夢を見ているという可能性もあった。 「陽樹、陽樹?」 「ああ、ごめん。考えてた。まず叔父さんの話を聞こうか」  理事長のデスクより手前に、テーブルと、それを挟むようにソファーが二つある。片側に叔父を座らせて、向かいのソファーに陽樹と瀬那が二人で座った。 「私が理事長に就任したときは、普通の学校だったんだ。生徒もあんなじゃなかったし」 「去年の頭からだよね、叔父さんが理事長になったの」  叔父の話に陽樹が補足する。 「理事長が白間学園に就任したときは、生徒さんたちは不思議な力を使っていなかったということですね。それでも大変だったでしょう。初めて学校の仕事に携わったと聞きました」  瀬那は話をかみ砕きながら、ノートにメモを取っている。 「そうだね。何も分からないけれど、白間家の婿養子になったからには、私の代で学園を潰すわけにはいかないから。でも、ほとんど生徒たちが自主的にやる仕組みができていて、理事長がするのは、書類の押印と、学食のメニューを味見することくらいかな」  怯えていた叔父の表情が和らいだのは、おかしな事態が起きる前の思い出話になったからかもしれないと、陽樹は少し安心した。 「困ったことは何時頃から?」 「今年の五月」 「今月じゃん!」  陽樹は驚いた。大学生の陽樹に相談する前に色々な所へ相談して、解決しなくて最後手段として陽樹に話が回ってきたのかと思っていたからだ。割とすぐ電話をくれたらしい。先程叔父が言っていたように、歴史ある学校を任されて、要人の子息に異変が発生して、誰にどう説明してよいか皆目見当もつかなかったのだろう。 「生徒の親には言わなかったの」

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