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第4話
「何言ってんだよ。ホラ、離れろ」
バーテンは、真那人たちから離れた場所に座っている客と話していてこちらに気づく様子はないようだ。
そのことを知ってか、実咲は赤くなった顔を真那人の顔に近づけてきた。
あと一センチほどで唇が触れるというところで、真那人は顔をずらして口づけを避ける。
すると、実咲も真那人から離れて怒りとも悲しみともつかない表情をした。
「何で避けんのよ…」
感情を押し殺したような声だった。
「なんでって…」
聞かれても、真那人も返答に困る。
「知ってるんだから、私。アンタが色んな女と遊んでること」
「……」
「公には知られてないだろうけど、周りじゃ有名だよ。アンタは色んな女引っ掛けてるって」
「別に、否定はしねぇよ」
嘘を言っても仕方ない。言い寄る女に手を付けているのは本当だから。
「キスどころか、寝たりもしてるんでしょ?私とはキスさえもできない?」
実咲の顔の赤さは、酔いによるものだけではないようだ。今にも泣きそうな顔をしている。
「お前は……そういうんじゃねぇから……」
真那人は落ち着いた声で告げた。
「え、どういう意味?」
「確かに、お前の言う通りだよ。でも、お前は簡単に考えてないし、身体がどうとか、そういう次元じゃないんだよな。大事には思ってるから、さ」
「真那人……」
真那人の言葉に、赤い顔の実咲も言葉が出ないほど嬉しいようだ。
「あなたが私に触れてくれないのは、魅力も何もないと思われてるからだと思ってた。ずっとね……」
「お前のことは大事なヤツだと思ってるから、そう簡単に関係持ったりしなかったんだよ。傷つけたくなかったから」
「傷だなんて……」
真那人に抱かれて、傷つくはずなどない。他の女と一緒くたにされるのは嫌だけど、女として見て欲しいのだろう。
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