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第6話

その数日後、休みだったので家でゆっくりとしていると、玄関のインターホンの音が鳴った。 「はい」  面倒ながらも出ると、訪ねてきたのは男だった。 『久しぶりだな。ちょっと、話があって来た』  父親だ。 一体何の用だと思ったが、取り敢えず部屋に通した。  父親とは、今も別々に暮らしている。真那人の母親は父親と愛し合っていたが、真那人が出来たと分かる前に別れることになった。だから、 父親から直接的な愛情など貰った試しがない。 「何の用ですか?」  コーヒーを父親に出し、ソファーの父親の隣に少し間を空けて座り尋ねた。 雑談や世間話などすることはないし、用件があるならさっさと言って欲しかった。 「端的に言う。康二が家を出た」  康二とは真那人の腹違いの弟で、真那人より二つ下の二十三歳だ。父親が結婚したどこかの令嬢との間にできた。 子供の頃から後を継ぐと言われて育てられていたから、当然、真那人も康二が父親の経営するKSグループを継ぐものだと思っていた。 「は?どういうことですか?」 「カナダに行くと言うから止めたんだが、制止を振り切って勝手に行ってしまったんだ」 「康二はお前に継いでもらえと言っていた。もう、戻るつもりはないそうだ」 「勝手なことを…これまで外にいた俺に、今更跡取りになれと?」 「お前も、私の息子には変わりない。跡を継ぐ資格はあるだろう」 「父さんも俺に来て欲しいんですか?」  わなわなと身体が震える。あまりにも勝手過ぎる。 「そういうことだ」 「いや…俺は今の暮らしに満足してますし、辞める気はありません。断ります」 「お前は、KSグループがどうなってもいいのか?跡取りが見付からなければ、いつまでも死ねん」 「知ったこっちゃないですよ。俺は会社とは無関係に生きてきた。今更無理です」 「そうか……まぁ、今日のところは帰る。だが、覚悟はしておけ」  父親はそう言い残して帰っていった。 真那人はしばらく、父親が一切口を付けなかったコーヒーのカップを呆然と見つめていた。 波乱の予感を恐れながら。

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