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第9話

「え!?」 「いずれ息子だと公表するとして、私と名字が異なるわけにいかないだろう」 「まぁ、確かにそうですね」 「もしお前が継ぐ時に、逢沢の名字でなければ、重役たちにも示しがつかない。そうは思わないか?」  穏やかには言ってはいるが、圧を感じた。 「どういう意味ですか?」 「私の籍に入りなさい」 「……」  もしそうしたら、母とは戸籍上は他人になってしまう。先程、母を頼むとは言ったが、母を一人にさせるようで不安が真那人を襲う。 「お前も実質的に私の息子として堂々と会社を率いることができるだろう」 「それはそうですけど!母と相談させてください。やっぱりまだこの件について考えたいです」 「その必要はない」 「え?何で……」  籍を移すにしても、真那人の独断では決められないだろう。話し合いくらいはするべきだ。 「お前の母とは、既に話がついている」 「は?何で俺に話す前に母に言ってるんですか?母からは何も聞いてないですから!」  あまりに横暴、身勝手すぎやしないか。 「こちらも、色々と前準備というのがあってな。母親に確認を取ってから、お前に言おうと思っていたのだ。私が黙っていてくれと頼んだ。悪く思うな」  抜かりない。  これまで自分たちを放ったらかしにしていて、こんな時は連絡をしてくるのか。 真那人は胸糞が悪くなった。 それから会議室を出て、社内の主要な場所を案内された。新しいビルなので、どこも綺麗で仕事をする環境としては良さそうだ。 そして帰り際に、真那人は思い立ったように父親に言った。 「父さん。頼みがある」 「何だ」 「家は、これまで通り好きにさせて欲しい。俺は逢沢の家には住まない。それだけはお願いします」 「……いいだろう。好きにしろ」  そう告げると、父親は自分の部屋へと戻っていった。

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