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第10話
自宅に帰ってから、真那人は母親に電話をかけた。
別に籍を移すことを了承したから怒っているわけでもなく、責め立てる気はない。
『ごめんね、黙ってて』
母親は済まなそうに父親から連絡があったのを黙っていたことを侘びてきた。
「いや、大丈夫だよ」
『お父さんを、恨まないでね』
その言葉に、なぜかドキリとした。
「……どういうこと?」
『あんたは、お父さんは私たちを放置してきたと思ってるだろうけどね』
「あぁ」
確かにそうだ。
これまでも会ったことがなかったわけではないが、正直、真那人にとっては父親であって父親でなかった。
向こうには既に家庭があり、企業のトップでもあるのだから仕方がないといえばそれまでだが。
『お父さんね、事ある毎に真那人のことを気にかけてくれていてね、支援もしてくれていたのよ』
「え?そんなの知らない」
『あなたや私に負い目を感じていて、お父さんもなかなか近づけなかったのよ。それに、あなたには内緒にと言われていたからね』
「それ、本当なのか?言わされてない?」
『まさか。本当よ。だから、お父さんの助けになってあげてちょうだい』
「母さん……いいの?」
『えぇ。逢沢の家にあなたが入れるなら凄いじゃない。今のお仕事はできなくなるけど、あなたにしかできないことよ』
確かに、弟以外では逢沢の血筋は真那人だけ。KSグループを継げるのは真那人しかいないのだ。
『あなたと、籍は離れるけどね、あなたは私の息子でもあるから。いつまでもね』
「うん……」
正直、モデルができなくなるのは残念だが、もしかしたら、良い転機になるだろうかと思う。
そこまで、今の仕事にさして未練がないのだろうか。
それに、重役だろうが何だろうが血筋の関係ない他の者が継ぐとしたら、それも癪な感じもする。
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