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第12話

急いで父親の待つ社長室に行くと、父親は何やら書類を見ていた。 「あぁ。来たか。まぁ座れ」  真那人は促されるままに黒い革張りのソファーに腰を掛けた。 「何ですか、今度は」  少し迷惑そうなニュアンスも含め、真那人は“早くしてくれ”と言わんばかりに問う。 「まぁそう嫌がるな。今日は見てもらいたいものがある」 「え?」  真那人が訝し気な顔を向けると、父親はデスクの引き出しからノート程度のサイズの薄くて固い、ファイルのようなものを出してデスクに置いた。 それを見て真那人は『あぁ、やっぱりな』と思う。 父親が出したのは、見合い写真に違いない。  大会社の子息などは、未だに見合いなどをさせられるようだ。 家と釣り合う程度の家柄の相手を、親が探し出し結婚をさせようとする。 「見合いだったら、俺はしませんよ」 「まぁ、そう言わずに見るだけ見てみろ」  父親は見合い写真を手に取り、デスクの前に立つ真那人に差し出してきた。 「俺には必要ありません」 「何故だ?家格も申し分ないし、美しく聡明なお嬢さんだぞ?」 「……でも……」  女性を愛せないのに、結婚などしたら相手を幸せにできないのではないか。それなら、結婚などできない。 「お前は、グループの跡継ぎになると決めたのだろう?それならその後の子どもも大事だとは思わないのか?会社にとっても、結婚は重大だ」  重みのあるトーンで言われ、何も言えなくなる。 「……」 「何も、今すぐに結婚しろというわけではない。一度会ってみるだけでもいいんだ。それで気に入ったらその先はお前次第だ」  “会ってみるだけでいい”というフレーズに、少し気が軽くなった。真那人も、会ってみるだけなら、後から断ればいいかもしれない。 「……分かりました。会うだけ、会ってみます」 そう告げて、取り敢えず見合い写真だけは受け取ってその場を後にした。 後日相手とは会ったが、相手は律子という美しい女で、逢沢家とも釣り合う家系だそうだ。 それでもやはり、これからの長い人生で一緒にいることなどは想像できそうにない。

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