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第15話

「そうでしたか」 「ウチの父も、妹に早く相手をと思っていたみたいですけど、実は好きな男がいるらしく、諦められないと言っているんです」  周防は申し訳なさそうに頭をポリポリと掻いた。 「なるほど。俺も正直なところ、言ってもいいですか」 「えぇ、どうぞ?」 「すみません。俺も断ろうと思ってたんです。まだ父親には言ってないんですけど」 「そうなんですか。律子、ダメでした?」 「いえ、そういうわけじゃないです。俺の事情で……」 「というと?」 「いや、その……」  問われると、実際にどう言ったら良いか分からない。 「律子さんは良い方だとは思いました。でも、俺はまだまだ結婚とかビジョンにないなと……」  真那人の告げた理由は、少し苦しかっただろうか。 「何も、すぐに結婚というわけではないと思いますけれど」 「そうなんですけど、律子さんには俺よりも相応しい相手がいると思ったんです」  ありきたりで、適当に聞こえただろうか。しかし、真那人にはそれくらいしか言うことができない。 「そうですか……」  周防は凄くがっかりしたようだった。 「縁がなかったのかもしれませんね。じゃあ、私と仲良くしませんか?」  周防は今までで最上級の笑顔を見せ、真那人は一瞬固まってしまった。 「は?」 「実は、律子のこと抜きにして、あなたと知り合いになりたいと思ってるんです」 「いや、俺いまはただの会社員ですし」 「いやいや、あなたは輝きを失ってませんよ。雑誌で見ていたままだ」 「そうですかね」  真那人が苦笑すると、周防は荷物から名刺ケースを取り出し中から一枚を抜き真那人に差し出した。 「今日はありがとうございました。ぜひ、連絡下さい。待ってます」  周防は今日何度目かの笑顔を残して席を立ち、店を出ていった。 店員に聞くと、会計は既に済んでいるとのことだった。   周防より名刺をもらってから、どうしようか悩みながらも、その日は取り敢えず周防に感謝のメールをした。 すると、それから周防からコンスタントに連絡が来るようになった。 そして、たまに食事にも誘われるようになり、徐々に真那人も周防への心のガードが外れてきたようだ。

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