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第38話
「俺は、真那人さんに幸せになって欲しいだけなんすよ。余計なお世話かもっすけど。知ってますか?真那人さん」
「何がだよ」
「周防さん、真那人さんの話結構してるって言ったじゃないっすか。『アイツは凄かった』『アイツを超えるくらいになれ』って。それに、この前も何気に俺に対抗心出してましたよね」
「そ、それだけで分かるのかよ。俺は、アイツの気持ちなんて分かんねぇ」
真那人は手持ち無沙汰に、ストローに手をやりアイスコーヒーの氷をかき回した。
「まぁ、俺も断定はできないっすけど、言ってみなきゃ、始まらないっすよ」
「でもなぁ……」
まだ真那人は煮え切らなかった。確かに、自分が周防を好きだという気持ちはある。しかし、実は周防は単に気まぐれに自分を抱いただけだったら……それに上手くいったとしても、会社や父親のことなど壁も立ちはだかるだろう。
色々と考えると、真那人の勇気を鈍らせる。
「大丈夫っすよ!心配事とかあるんなら、気持ちを打ち明けてからにすればどうっすか?何も始まらないっすよ。ウジウジしてたら」
ウジウジか……。確かにそうかもしれない。先に進めず、気持ちを押し込めようとしている。拓実は直球勝負で、ある意味羨ましいところもある。
気持ちを素直に伝えられたらどんなに良いだろう。
遠くないうちに、決心をしなければいけないのかもしれない。
「そうだな。俺も機会見つけて気持ち伝えるようにする」
「そうっすよ!じゃ俺、次の撮影あるんで行きますね」
ズズっとアイスコーヒーを飲みほして、拓実は嵐のように帰っていってしまった。
今や拓実は、人気モデルに成長し昔の真那人に匹敵するくらいになっている。それに近頃はさらに仕事を頑張っているようだ。
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