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第42話

「いや……お前ほどじゃ……」 「俺だって逢沢になったけど、鳴り物入りだから……」 「俺もさ、実は親父の愛人の子なんだ。元々周防家にいられたわけじゃない。育ちは六畳一間のアパートで、生活は苦しかったんだ。母親が意地かなんかで、父親の援助を受けなかったから」 「そうだったのか……」  意外な周防の告白に、真那人は言葉に詰まった。 「でも、必死に大学を出た後に周防家に迎えてくれた。そして入ったのが、お前のいたモデル事務所も運営している鳳来コーポレーションだ」 「え、鳳来?」  鳳来コーポレーションといえば、誰だって知っている大企業だ。 モデル時代は、事務所の内部の人間とはあまり関わってこなかったし、事務所が鳳来コーポレーションの一つであることも、気づかなかった。 それだけ、周囲に興味を示さなかったということか。  昔の自分は、その時楽しければ良いという観念しかなかった。 「ごめん、気付かなかった。俺は周りに無関心過ぎたみたいだな、昔はさ」 「いいよ。そういえば、お前モデルをまたやりたいんだろ?本当は」  唐突に聞かれ、少し驚いた。 「え?」  それは、前も聞かれたが今さらどうするつもりもない。それだけじゃなく、再び表舞台に立つのが怖かった。 「やっぱりお前、本当は未練あるんじゃないかと思ったんだ」 「それは…」  確かに、嫌いでモデルを辞めたわけではなかったし、できるなら続けていたかった。それでも、もう華やかな世界には戻らないと決めたのだ。もう後戻りはしない。 「少しでも未練があるなら、挑戦してみるのも良いんじゃないか?」  周防は真那人の髪を優しく撫でた。 「でも俺、もう若くねぇし。今の俺なんか……」 「そんなことないよ。今のお前も十分に素敵だよ。土俵は変わっても、頑張ってるだろ?」 「まぁ……頑張ってるつもりではいるけど」 「今のお前を見てもらうんだよ。年齢を重ねてより一層魅力を増したお前をな。きっと、ファンは喜ぶぞ」  周防の言葉は、確信に満ちて聞こえた。こそばゆい気もするけれど、真那人も本当にそうなのかもしれないと少しだけ思った。

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