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第44話
後日、真那人は会長室に出向いた。いつ来ても、ここは緊張感を感じさせる場所だ。
部屋にある応接セットに向かい合い座って対峙していると、話したいことをしっかりと話せるのだろうかとさえ思える。
「今日はどうした」
父親が切り出した。
「お願いがあってきました」
「何だ。言ってみろ」
ゴクリと唾を飲み込み、緊張の中で真那人は口を開く。
「もう一度、モデルをしたい」
「モデル……?」
父親の顔はにわかに厳しくなった。反対されることが、言われる前に分かってしまう。
「はい。これまで会社のために働いてきましたが、雑誌の編集をしていく中でキラキラしているモデルたちを見て、俺も戻ってみたいと思ったんです」
「昔は好きにさせていたが、今はもうお前はKSグループの人間だ。しかもただの社員ではない。それが分からないのか?」
「もちろん、分かっています。ただ、このままではきっと後悔したままになるんです。会社にきちんと向き合うためにも、一度だけでも、復帰させてください。お願いします」
真那人は膝に手を付いて頭を下げた。こんなことをしたのは、人生で初めてかもしれない。
「どうしても、やりたいのか?」
「はい」
真那人はしっかりと父親の目を見つめた。
「それなら、会社のことは伏せるんだぞ。今騒がれたら面倒だからな」
「え……どういうことですか?」
「モデルをするのを許すと言っているんだ」
「ほ、本当ですか?」
真那人には、父親が許してくれたことがにわかに信じ難かった。
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