44 / 71

第44話

後日、真那人は会長室に出向いた。いつ来ても、ここは緊張感を感じさせる場所だ。 部屋にある応接セットに向かい合い座って対峙していると、話したいことをしっかりと話せるのだろうかとさえ思える。 「今日はどうした」  父親が切り出した。 「お願いがあってきました」 「何だ。言ってみろ」  ゴクリと唾を飲み込み、緊張の中で真那人は口を開く。 「もう一度、モデルをしたい」 「モデル……?」  父親の顔はにわかに厳しくなった。反対されることが、言われる前に分かってしまう。 「はい。これまで会社のために働いてきましたが、雑誌の編集をしていく中でキラキラしているモデルたちを見て、俺も戻ってみたいと思ったんです」 「昔は好きにさせていたが、今はもうお前はKSグループの人間だ。しかもただの社員ではない。それが分からないのか?」 「もちろん、分かっています。ただ、このままではきっと後悔したままになるんです。会社にきちんと向き合うためにも、一度だけでも、復帰させてください。お願いします」  真那人は膝に手を付いて頭を下げた。こんなことをしたのは、人生で初めてかもしれない。 「どうしても、やりたいのか?」 「はい」  真那人はしっかりと父親の目を見つめた。 「それなら、会社のことは伏せるんだぞ。今騒がれたら面倒だからな」 「え……どういうことですか?」 「モデルをするのを許すと言っているんだ」 「ほ、本当ですか?」  真那人には、父親が許してくれたことがにわかに信じ難かった。

ともだちにシェアしよう!