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第46話
後日、父親から会長室に来いという連絡があり、嫌な予感を抱きながら真那人は父親のもとを訪れた。
「何かお話ですか」
声をかけると、父親は振り向いた。
「お前、恋人がいるのか?」
父親の1言に、真那人は凍り付いてしまう。覚悟はしていたが、やはりこのことだったか。
「どうしてですか?」
いるなどと正直に言えば、厄介なことになりかねない。
「隠さなくていい。もう調べはついているんだ」
「え?」
冷や汗が額を伝う。きっと父親は、周防のことを許しはしないだろう。
「お前が男と会っているようだと聞いた。それで調べさせた」
やはりな、それが真那人の気持ちだった。父親なら、調べさせることくらいどうということもないはずだ。
「……」
真那人はどう反応して良いか分からない。黙って俯くだけだった。
「まさか、お前がゲイだったとはな。しかも見合い相手の兄と……」
父親は、さも嘆かわしいと言わんばかりの顔をした。
「どうやって知り合ったのか知らんが、お前、自分の立場分かっているのか?」
「仕事は精一杯やっています。それに、ここの跡取りでも人に惚れる権利があると思うし、それが例え男だとしても俺は気にしません」
真那人はきっぱりと言い放ち、渋い表情の父親の顔を見つめた。
「跡取りはどうするんだ。周りもお前は結婚しないのかと変に思う者も出てくるだろう。人に聞かれるぞ、まだですかとな」
「俺は、周防さんとずっと生きていきます。もう決めましたから」
真那人にとっては、これほどまでに想える相手に出会えたことが幸せなことだ。
もう、他などいらない。周防がいれば。
「一時の気の迷いなら止めておけ。お前が傷付くだけだ」
「周防さんがいない方が地獄ですよ」
「くだらんことを言うな」
その言葉に、真那人の気持ちはかき乱される。
なぜただ人を好きになっただけなのに、邪魔をされなければいけないのだろう。
目の前にいる父親の息子だというだけで。
物事は上手くいかないものだ。
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