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第53話

 後日、用事があるとだけ伝えて、真那人一人で訪れるフリをして父親のもとを周防と訪れた。  まずは真那人が会長室のドアをノックする。 「真那人です」 「入れ」  父親の声を合図にドアを開け中に足を踏み入れた。真那人の後ろには周防が控えている。周防の姿に気付いた父親が、僅かに眉をひそめた。 「用があると聞いていたが、そちらは?」  厳しい顔をする父親に、真那人は怯みそうになる。 「こちらは…」  真那人が紹介をしようとしたところで、周防が腕を抑えて制止してきた。 「初めまして。私は周防洋二と申します。ゴールドプロダクションというモデル事務所を経営しています」 「モデル事務所?」  周防とのことは、父親には知られているはずだが、周防の顔までは知らないらしい。 「はい。鳳来コーポレーションの傘下となっている事務所なのですが、私は鳳来コーポレーションの長男です」  父親が、ピクリと眉を動かした。もしかしたら、真那人が見合いをしたのを思い出したのかもしれない。 「あー、あなたでしたか。初めまして。さぁ、どうぞ、お座りください」  応接セットの方に手をやり、父親が座るように促した。 真那人と周防が並んで座り、向かい側に父親が座る。こうして向かい合って対峙すると、ピリピリと空気が張り詰めるように感じる。正直、居心地は良くない。しかし、ここは耐えて乗り切らなければならないのだ。 ピンと張った空気の中で、最初に口を開いたのは父親だった。

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