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第56話

「分からんのか。二人で生きていけと言っているんだ。一回で理解しろ」 「父さん……」  思わず、柄にもなく涙が出そうになった。 「何だ」 「ありがとうございます。それと、すみませんでした。色々と……」  結婚という期待に応えられないことや、周防と離れられなかったことなどをひっくるめて。 「もういい。しっかりと会社のために働いてくれたら、それでな」  真那人の心が解けた気がした。これまでは、父親への畏怖や反発心などがあったが、それも少しずつ消えていくような気がした。  すると、今度は周防が口を開いた。 「私からも、ありがとうございました。将来は、さらに会社を大きくして2人で盛り立てていきたいと思います。それと……」 「それと、何ですか?」  父親に問われ、周防はおずおずとスーツの内ポケットから白い封筒を取り出して差し出した。  それを見た真那人も、ピンときた。ショーのチケットだ。 「来週の日曜に、メンズファッションショーが開催されます。それに真那人さんも出演することになっているので、どうかおいでください」  周防はそう言うとチケットをテーブルの上に置いて立ち上がった。それに続き、慌てて真那人も立ち上がる。 「本日は、お時間を取らせてしまい申し訳ございませんでした。これで失礼いたします」  お辞儀をした周防は部屋を出て行った。真那人もそれに倣う。

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