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第57話
「チケット持って来てたんだな。俺、気が付かなかったわ」
廊下を歩きながら真那人が感心したように言う。
「あぁ。だって、せっかくの舞台だろ?見て欲しいからさ。俺も」
「サンキュ。でも、来てくれないかもしれないぞ」
「俺たちのこと、許してくれたんだし大丈夫だろ」
「そうかな。ってか、本当に良く許してくれたよな、あの親父が」
周防とのことを聞いてあんなに反対していたのに、許してくれるなど思ってもいなかった。鳳来グループと合併しても良いという話をしたのも功を奏したのだろうか。
「うん。本当にホッとしたし、嬉しい」
「そうだな。俺も嬉しい。でもさ、あんなこと言っちゃって良かったのか?鳳来コーポレーションと合併とかさ」
その時エレベーターホールまで辿り着いたので、周防が下へ行くボタンを押した。
「あぁ。俺はそのつもりだから。だって、いずれは俺たちの代になるんだし。二人で、新しいこともしたいと考えてるんだ」
周防はニコリと微笑んだ。周防の中には、既に未来のビジョンがあるのだろうか。そのビジョンの中の自分は、どんなことをして、どんな風に周防に愛されているのか、少し気になった。
そんな物思いに耽っていたら、エレベーターが開いたので2人で乗り込む。
「そっか。俺たちの未来って、どうなってんのかなぁ。楽しみだけど、ちょっとは不安もあるかな」
「え、不安?」
「当たり前だけどさ、予想が付かねぇから」
すると、周防はふふっと笑った。
「何だ、笑うなよ」
「いや、ごめん。大丈夫だよ。俺がいるから。な?」
真那人の右手の小指には、周防の左手の小指が絡められた。
「そうだな」
真那人の顔は赤くなったと思ったら、すぐにドアが開き、人が乗ってきたため小指は離れていった。乗ってきた人たちを、ちょっとだけ、恨めしく思う。
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