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第58話

ショーの当日。夜からの本番のために真那人はアリーナを訪れた。ここはかつて真那人がショーで何度も訪れたことのある場所だ。 会場に入り楽屋に向かっていると、知った背中を見つけた。 「拓実」  そう呼ばれた男は振り向き、満面の笑みを向けてきた。 「あ、真那人さん!おはようございます!いよいよっすね!」  拓実は相変わらず朝から元気が良い。 「あぁ、まぁちょっと緊張してるけどな」 「え、真那人さんがっすか?」  きょとんとした目で拓実が見てくる。 以前は手慣れたもので堂々とランウェイを歩いていたものだが、そんな世界に出なくなって久しい。昨夜だって眠れずに歩く練習を密かにしたほどだ。 「そうだよ。悪いか」  真那人も笑って答えた。 「悪くないっすよ。大丈夫っす。気負わないで今の真那人さんを見てもらいましょうよ」 「サンキュ。そうだな」 「俺も、真那人さんのステージ楽しみにしてるっすから!」  そう言って、拓実は先に入っていった。  真那人も楽屋に入り用意をしようかとしていたところ、部屋に周防が入ってきた。 周防は今回の運営側なので、真那人たちよりも早く会場に入っていたのだ。 皆に声をかけて回り、周防は真那人のもとにもやってきた。 「真那人、おはよう」 「おはよ。朝からお疲れ様」 「いや、ちょっと来てくれるか?」  不思議に思ったが、取り敢えず付いていった。 連れて行かれたのは階段の下にある空きスペースで、誰も通らない死角だ。 「どうしたんだよ、突然」 「ここだと、人目を気にせず話せるかなと思ったんだよ」 「そ、そうかよ」 「今日は、落ち着いてやれば良いからな。お前らしく歩いてくれ」 「あぁ。てか、アンタだって今日は大変だろ?バテんなよ」  気遣う意味でそう言うと、真那人の体は周防の腕の中に包まれていた。 「ちょ、周防さん」 「今日の成功のため、頑張ろうな」 「うん……」

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