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第61話
ステージ裏に行くと、大勢の人がいてその中に周防を見つけた。
すると、周防もこちらを向き真那人に気付いたようだ。
「あぁ、真那人。そろそろ時間だな。お前らしくやればいいから」
「うん。まぁ、緊張はしてるけどさ、何とかやってくるよ」
周防は優しく頭を撫でてくれた。他の人が見たら変に思わないか内心気になったが、周防にパワーを貰えたような気がする。
「頑張って行ってこい」
そっと背中を押される。
「うん。行ってきます」
ちょうど真那人の出番。アナウンスでは真那人の登場を知らせていて、わっとひと際大きな歓声が上がる。拓実の時くらいか、それ以上かもしれない。
ここまでの歓声が貰えるとは思っていなかった真那人は、少しだけ動揺してしまう。それでも、ステージに立つ以上はプロとしてやり遂げなければいけないのだ。
真那人は深呼吸をしてからステージへと出て行った。
割れんばかりの拍手と音楽をかき消すほどの喝采。舞台袖までの緊張など吹き飛び、真那人は自信に満ちた様子でランウェイを進んだ。
かつて自分はこんな素晴らしい世界にいた。その場所に戻って来られただけでも感無量で、一歩一歩を大切に踏みしめる。
この世界から去って時が経っても、未だに忘れ去られずにいてもらえたことが、何よりも嬉しい。あちこちから飛んでくる、自分の名を呼ぶ声も、今の、そしてこれからの自分の活力になりそうだ。
『もう悔いはない』
真那人はそう思えた。今日を境に、モデルの世界からはすっぱりと離れよう。そう心で決断したのだった。
異動した職場も幸いというか、ファッション雑誌やモデルとは関係ない部署だし未練が募ることはこの先ないだろう。
晴れ晴れとした気持ちで、真那人はステージから下がった。
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