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第69話

 住宅街にある実家から一番近いバス停で降り、かつての我が家の前に立った。十年ほど振りとなる母親の待つ家の前に。 家の周りは、実家も含めてさほど変わっていなかった。実家前にあった小さな商店は今も営業しているようだし、実家の数軒先にある自転車屋も相も変わらずに店主が自転車を磨いている。 そのことが真那人は何となく嬉しかった。 「ここが、俺の生まれ育った家だよ」  白い壁の一軒家が二人を迎えてくれた。小さめな造りだが、親子二人だけで住むには大きいと思われるかもしれない。実家には、母親が仕事で使う作業場があり、そのスペースも取られているのだ。 「そうか。素敵な家だな」 「え、そう?そんなことねぇよ」  照れ臭く笑った時、家のドアがガチャリと空いた。 「あっ、母さん」  母親が顔を出したのだ。 「いらっしゃい。よく来たわね。ちょうど窓から見えたのよ」 「初めまして」  周防は頭を下げた。 「こんなところまでおいでいただいて、ありがとうございます」  母親が周防に笑顔を向けると、彼はまた頭を下げた。 「さ、中へどうぞ」  母親に招き入れられて。二人は家の中に入った。

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