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第2話 変化【木ノ下と眞那斗】
てっきり、てっきりである。田口さんか、田口さんの部下である中野君が迎えに来てくれると思っていた。
が、目の前の車から、スーツ姿の木ノ下さんが降りてきたので、俺はかなり焦った。
「き、木ノ下さん、なんでっ??」
「なんでって、連絡を貰ったから来たんだ。ほら。立てるか?」
「…………っ、ちょっとすぐには立てないみたいです。すみません」
身体がものすごく重く、力が入らない。
よろけた俺を木ノ下さんが支えてくれた。
「朝は元気だっただろう。急に調子が悪くなったのか。心配だ」
木ノ下さんはまるで息をするかのごとく、俺を抱き上げる。
「ひゃ、は、、おもいですっ、ぁ、、」
「…………確かに。思ったよりは体重がある」
「ひぇ、す、す、すみません」
「お前、さっきから謝ってばかりだぞ」
「…………いや、皆さん忙しいのに申し訳無くて」
「忙しいのは、俺ではなく会社だ。組織は人1人居なくても問題はない。元々そういう風にできている」
路上の隅へ停めていた黒いワンボックスカーの扉が開き、後部座席へゆっくりと下ろしてもらう。
とりあえず、安心できる場所へ落ち着けたことに安堵する。
「買い物の途中だったのか」
「はい」
「買い物くらい、田口に頼むか宅配してもらえばいいのに」
「外に出たかったので。散歩もしたかったし」
木ノ下さんは、恐らく血色が良くないであろう俺の顔を見下ろし、ため息を吐いた。
「これから医者に診てもらう」
「えっ!!医者って、俺は狐人間ですよ。バレたら生きていけない」
『医者』という単語に過剰反応してしまう。人間に狐バレする行為はトラウマになっており、あんな思いをするのは二度とごめんだった。正直に言うと、死んだ方がマシである。
「じゃあ、この状態を放っておけと?」
「寝てれば治ります。たぶん」
「たぶん、じゃ困るんだ。それに、この先お前だって病気や怪我もするだろう。信頼できる医者が必要だ。遅かれ早かれ診察は受けてもらう予定だった」
「…………そのお医者さんは、本当に『信頼できる』んですか?」
「ああ。同級生の兄だ。昔からよく知ってる」
「お知り合いですか……俺が狐人間だってことを他人に話したりしないですよね。秘密は守ってくれますよね??」
「勿論。俺を信じろ」
自信たっぷりに木ノ下さんは頷いたので、俺は信用することにする。
今の状況からは、木ノ下さんに反抗ができない。言うことに従うしかないのだ。
車は郊外を走り、間もなく大きな敷地へ入っていく。俺の知る『病院』でも『クリニック』でもない。巨大な建物が乱立していた。
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