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第11話変化【木ノ下と眞那斗】
「あれから変わったことは?」
「嵐のような発情は5日ぐらいで元通りになりました」
発情期診断の10日後、血液検査の結果と経過を観察するため、末野原先生の研究室へやってきた。
俺は、人間よりも狐の血の方が濃いそうだ。当初の予定よりは発情のサイクルが早くなるかもと先生は言う。
人間の女の人のように、発情期前はイライラしたり眠くなったり、個体差はあるようだが、身体から何らかのサインがあるらしい。とても扱いが難しい身体になってしまった。
「優希は力になってくれたみたいだね。良かった」
「…………はい」
1日で済むと思っていたものが、次の日とその次の日も発作的に熱がやってきたため、木ノ下さんに助けを頼んだ。
木ノ下さんは優しく何度も抱いてくれた。痛いことは微塵も無く、蕩けるようなセックスだった。俺のお尻も安泰だ。
その結果、すっかり木ノ下さんに惚れてしまった俺は、未だにポーっとしている。恋熱に取り憑かれてしまったようで、何もかもが輝いて見えたり見えなかったり、色々面倒臭いのである。
抱かれて惚れるとか、女々しいこと限りないが、なんせ木ノ下さんが男前なのである。
気が付くと木ノ下さんのことを考えていて、お花畑の脳みそは、休まることを知らないようだった。
「あまりにも苦痛だったら、ホルモン剤を処方しますが、どうしますか?」
「これくらないなら付き合っていけそうです」
「パートナーがいることは、本当に大切なことです。仲良くしてくださいね。暫くは1ヶ月に1回の診察となります。また来月会いましょう」
「先生、ありがとうございました」
俺は深々と頭を下げた。
帰り道、運転手の田口さんから大きな包み紙を渡された。
「何ですか?」
「眞那斗さんが欲しがっていたものです。すぐ届きましたよ」
まさか……と、急いで包みを開ける。
ピンクとブルーが半々の派手な枕が出てきた。ピンク側には大きな〇の中に『yes』ブルー側には✖の中に『no』と刺繍がされている。初めて見た。これが噂のラブピローというものか。
「ほ、ほ、欲しがっていません…………けど、いただきます。ありがとうございます」
「お身体を大切に。また何か欲しいものがあったら教えてください。貴方の健康はボスの機嫌に繋がりますので。サラリーマンには切実な問題なんですよ」
笑いながら田口さんはハンドルを切る。
「来週からいよいよ入社ですね」
「ちょっと緊張してきました」
発情期問題ですっかり忘れていたが、俺が元いた会社へ再び入社する日が近付いていた。
「社内恋愛、頑張ってください」
「会社で恋愛なんかしません。公私は別です」
「ボスは楽しみにしてましたよ」
「だって、木ノ下さんは顧問で、非常勤の筈じゃ……」
「あの人は何とでもする男ですから。つまらないことが大嫌いなのはご存知でしょう」
「…………………………」
来週からが怖い。
不安に耐えるように枕を抱える。流れる車窓からは夏の日差しがこれでもかと主張していた。
【END】
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