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第1話光と影【七瀬と紅緒】
《秘密のきつねちゃん おかわりで登場する七瀬と不思議な力を持つ紅緒。寄り添うように生きている2匹のお話です》
俺の名前は七瀬。苗字は無い。物心がついた時からずっとこの名前だ。
生まれはアンダーグラウンドのどこか。親は知らない。
狐人間の吐き溜めで、その日暮らしをする。出来ることは犯罪でもやった。子供だからって容赦をして貰えない。良くも悪くも生きていくための術を学んだ。
実は狛崎のように、人間社会と蜜にして暮らす狐は少ない。それだけ人間社会は狐にとって見返りが大きいぶん、かなりのリスクがあり、出戻る狐が大多数を占めていた。
それに狐は孤児が多い。狐社会の病んだ闇の部分は、未だ解決されずに根強く残っている。
俺は他の狐より要領が良かった。頭も悪くなかったと思う。俺が作った孤児達の小さなコミュニティは、そこそこの利益を生み、アンダーグラウンドでは有名な組織へと成長した。
そしてある日、紅緒を拾った。
「紅緒、朝だよ」
「……………………………………うっせぇ」
紅緒は朝が弱い。出会った時からずっとそうだ。
ゴミの中で弱っていた紅緒を拾ったのは、10年前だ。高熱を出して今にも死にそうな汚い塊を気まぐれで連れ帰った。
風呂に入れ、痩せ細った身体を温めた。数日うなされたのち、赤い髪の狐は息を吹き返した。こんなに可哀想な狐はあまり見た事がないくらい、身体はガリガリの傷だらけだった。
せめて歩けるようになるまでと側に置いておいた。そうしたら、いつの間にかかけがえのない存在になっていた。
紅緒には特殊な能力がある。
同族に対し、微量の生気を感じ取り、どこで何をしているか分かるというものだ。能力の発動条件はあるものの、大体は察知できる。
紅緒の能力は、俺が傍にいないと使えない。というか、本人は使おうとしない。あの手この手で紅緒を取り込もうとした権力者達は、紅緒の頑固さに今となっては諦めていた。悪用すれば脅威となる紅緒の能力は、中立な立場として狐老会の必要な時だけ使われている。
紅緒の柔らかな赤毛に指を通す。どれだけ染めようと試みてもすぐに赤毛へ戻ってしまう。
「起きないと、買い出しに連れていかないよ」
「………………………………やだ」
ごろんと細い身体が寝返りを打つ。何度めかの誘拐の時に大きな傷を負った背中には、痛々しい跡がいくつもあった。
俺が拾わなければ、紅緒は死んでいたかもしれない。でも、俺が拾ったから、彼に辛い体験を強いることになってしまった。
どちらが幸せかと問えば、『七瀬と一緒がいいに決まってんだろ。ばーか』と紅緒は言う。俺がいないと紅緒は生きていけない。
同時に、紅緒がいないと、俺も生きている意味が無いのだ。
俺は紅緒を心の底から愛している。
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