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第2話光と影【七瀬と紅緒】
俺たちはアンダーグラウンドには住んでいない。車がなければ成り立たない田舎の小さな町の小さな一軒家で、鶏とヤギと暮らしている。
家の裏の細い道を上がっていくと、山の中腹に小さな稲荷神社があり、そこの管理も任されていた。管理と言っても掃除やお供え物の交換などである。皮肉なことに、狐は神のお使いなのだそうで、文字通り神の使いが世話をしている。
用事があるときだけアンダーグラウンドへ行く。紅緒を守るため、危険な場所へは極力近付かない。
「あのさ」
「ん、何?」
「狛崎が働き始めたっぽい」
朝ごはんの目玉焼きを突きながら、ぽつりと紅緒が呟いた。
「珍しいね。紅緒が仕事に関係なく能力を使うの」
「なんかあいつは気になる」
「また問題を起こしそうな予感する?」
「んー、ちょっと、ある」
眉間に皺を寄せている紅緒はとても愛おしい。
「折角外に出してあげたのに。薄情な奴だね」
きっと狛崎自身は狐界から捨てられたと思っているに違いないが、木ノ下氏の元で暮らすのが1番の幸せだと俺は考えている。
「たぶん発情もした」
「一丁前に発情をして、木ノ下氏に処理してもらって、社会復帰もして、いい身分だ」
「俺たちには関係ねぇし」
「そだね。じじい達が何か言い出したら、考えよう」
じじい達は己の保身を気にしすぎる。狛崎については金ヅルにしか考えていないだろう。実際、彼は金のために木ノ下家へ身売りしたようになっている。
「食べたら出かけるよ。紅緒の好きなドーナツ買ってあげる」
「うお、マジで!!」
紅緒は、アンダーグラウンド出身であるが故に普通の幸せを知らない。かくいう俺もそうなのだが、紅緒には俺が与えられる最大限の幸せを与えてあげたい。
500メートル離れたお隣の老夫婦からもらった大量の夏野菜を車へ積み込む。今からアンダーグラウンドにある孤児施設へ届けに行くのだ。狐老会は呼び出しが無い限り行かないのが俺たちのルールである。
「七ちゃん紅ちゃん野菜をお願いね。食べてくれる人がいるってうれしいわ」
「お預かりしますね。いつもありがとうございます」
「気をつけて」
「行ってきます」
助手席に乗った紅緒が夫人へ軽く会釈をする。礼儀はここに来てかなり覚えた。
近所の人間はみんないい人たちである。田舎は控えめに人当たりを良くしていれば問題無い。ちなみに俺たちは、全く似てないので異母兄弟で通している。
運転する俺の左手へ、照れくさそうに紅緒が指を絡ませてきた。
「七瀬、帰りにあそこ寄りたい。こないだ行ったとこ」
「……いいけど、時間があったらね」
「時間ねえかもしれないじゃん」
「うーん。今日は行けないかな。最悪家でもいい?」
「…………別に、いいけど」
唇を尖らせた紅緒はやっぱり可愛いくてしょうがなかった。
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