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第3話光と影【七瀬と紅緒】

結局、狐老会からの急な呼び出しのため、寄り道をすることができなかった。ドーナツすら買えずに帰宅する。 夜は余程のことが無い限り紅緒を連れて外出しない。 安全な場所へ紅緒を匿っておかないと狙われてしまう。紅緒の能力を悪用しようとする輩はごまんといるのだ。 狐は人間社会で騒ぎを起こすことを何よりも嫌う。稲荷神社の御加護もあり、敢えての田舎暮らしは今のところ上手くいっていた。 紅緒が寄りたかったのは『ラブホテル』だ。能力を使いすぎた紅緒を休ませたくて利用したのが始まりだった。 『大きな風呂』と『大きなベッド』がいたくお気に入りで、たまの楽しみだったらしい。俺はどこでもいいのだが、彼には拘りがあるようだ。 「紅緒、ごめん。次行こう」 「次っていつだよ」 いつもツンとして口数が少ない紅緒が行きたいと強請ったんだから、余程のことのようだ。 「だから、ごめん」 口を尖らせる紅緒の頭を撫でる。 「いつって決めろ」 「……じゃあ、明日」 「明日は神社の掃除の日だ」 「あ、忘れてた」 「明後日」 「分かったよ。明後日行こう」 「絶対に忘れんなよ」 絶対の絶対に忘れんな、と更に念押しされた。俺の記憶にしっかりと刻まれたことだろう。 「もう寝ようか。今日は疲れたでしょ」 紅緒は明らかに疲弊している。能力を使った日の紅緒は死んだように眠る。脳が疲れるのだ。 「…………寝ねえよ」 「約束は守るから。大人しく寝なさい」 「いやだ。してから寝る」 「寝落ちされたら、俺が悲しいんだけど」 ああ、あれだ。ランナーズハイのような感じに似てるのかもしれない。 だが、流石に寝ている紅緒相手に行為は完遂できない。 「朝から七瀬とできるって思ってたし。今さら無しっつーのは無理だ」 「紅緒が欲しいって言ってくれるのは凄く嬉しいけど、明日じゃだめ?」 「駄目だ。ピザを食べようとしていた口に焼き魚は入らねぇんだよ」 ねえ、どういう例えだろう。俺はピザなのかな。それとも焼き魚かな。俺はどっちも好きだけど。 疑問符が沸いた俺に紅緒が抱きついてきた。よろけた俺ごと2人はベッドへダイブする。 「七瀬、やろ」 紅緒の望むものは何でもあげたい。 観念した俺は、紅緒の唇をきつめに吸った。

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