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第2話君に拾われた日から

ほんの気まぐれだった。 どうして人間社会に転がっている物体を気に留めたのか、気まぐれとしか言い様がない。 恐る恐る黒い塊へ近付き、傍に寄ってまじまじと観察してみる。どうやら生き物のようであった。 (…………ん?これって人間……いや、耳がある…………まさか。同族じゃないか) 真っ黒の物体は、折りたたまれたように身を縮めた狐族だった。子供のように見える。黒い穴だらけでボロボロの服に、身体全体が酷く汚れていた。辛うじて息をしている。 面倒臭いなと思った。煩わしい幾つかのことが頭をよぎる。 しかし俺が拾わなければもっと厄介なことになる。同族、特に子供が人間社会で問題を起こした場合の対処も俺達の仕事であった。結局、こいつに何かあれば自分達が回収しなくてはならなくなるのだ。 反応しない黒い物体を持ち上げて車へ運ぶ。それは驚くほど軽く、細い身体だった。 後部座席へ放り投げても、うんともすんとも発しない。さっきまでは動いていたのにどうしたものか。 (もしかしたら瀕死なのかもしれない。まあ、処理は拓にさせよう) 要は、今やるか後やるか。俺の下には拓という部下がいた。彼は優秀でやりたいこと、やるべきことを直ちに汲み取ることができる。今回もやってくれるに違いない。 早く帰るべく、俺はアンダーグラウンドへの道を急いだ。 「無理です」 「えっ」 「七瀬さん、忘れたんスか?あなたの言いつけで、今日から別のアンダーグラウンドへ物品を運ばないといけないんですよ!!」 「あー、そうだったね。じゃあ宗春は?」 「宗も一緒です。下っ端にでも頼めばいいですよ。俺が依頼しましょうか」 早速携帯を取り出した拓をやんわりと制止する。 「いや、自分でやるよ。気を付けて行ってきて」 「七瀬さんの手を煩わせるのは申し訳ないです。俺がなんとかします」 「いい。いいから。脱稿して時間が少しあるし、偶には自分でやるよ」 「そうですか。なんか心配ですけど」 「大丈夫。前はやってたし」 呆気なく拓に断られてしまった。 自分が命令したことだから仕方ないにしろ、下位層へ頼むのも気が引ける。 気まぐれで持ち帰ってきたこの同族の処理は、自分でやらなくてはいけない気がした。 微塵も動かない細い身体から、服を引き剥がす。こうやって拓も宗春も俺が面倒を見てきた。なんだか懐かしい気持ちになる。

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