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第5話君に拾われた日から

彼に何度聞いても名前は無いと言う。自分が他人からどう呼ばれていたのかさえ興味が無いようで、まるで透明人間かのように自らを扱う。 しょうがないので赤毛と密かに呼ぶことにした。 赤毛はとにかくよく眠る。朝から晩まで昼間も寝て、夜も普通に寝る。流石に心配になり、水と食べ物を側に置いておくと、いつの間にか無くなっている。という日々が1週間続いた。 翌週から覚醒期間が徐々に増え、午前中は、ぼーっと起きているようになる。俺が危害を加えないと判断したらしく、ポツポツと言葉を交わすようになった。 悪というもの嫌という程見てきた俺からしてみれば、赤毛がそんなに悪い存在とは思えなかった。根から狂っている奴は、何をしていても沸き上がる気色悪いドス黒さがある。胡散臭さというか、所作の汚さが鼻につくのだが、赤毛はそれを持っていなかった。 寧ろ、白に近い純粋無垢な香りさえした。何にも影響を受けずに育った存在がいるのかと不思議に感じた。 それから、不思議なことが起こる。 拓が来る時に限り、赤毛はどこかへ隠れるようになったのだ。最初は偶然かと思っていたことは、どうやら必然だったらしい。拓以外の仲間は全く反応しない。もうこれは拓が来ることを知っている=感知していると俺は観察を始めた。感知能力が並外れて優れている同類が存在する話は、都市伝説並に聞いたことがある。 「…………あいつ、来る。面倒くさいの連れて」 「え、あ?」 ある時、俺にわざわざ伝えてから赤毛は奥の部屋へ行ってしまった。 数分して予言通り拓がやってくる。確かに知らない狐を連れていて、北の狐だとすぐ分かった。腕に赤色のバンダナを巻き、目元に雫のタトゥーがあるからだ。 「七瀬さん、協力してほしい人を連れてきました。北の、レンです」 レンは深々とお辞儀をした。聡明そうな青年である。名前は拓から聞いたことがある、拓の想い人だ。背は高く、姿勢も良い。コミュニティ間で交流を妨げる風習もないので、どちらかに移住してしまえばいいのに、現実はそうはいかないようだ。 「赤毛の男を探して欲しいんです」 (やはり赤毛を探しにきたのか) 「理由を教えてくれないか。場合によっては協力しかねる」 「赤毛の男には特別な能力があります。さまざまなことが察知ができるんです」 「……うん。それで?」 その能力にも薄々気付いていたから、淡々と話を促す。 「うちのリーダーの妹さんの居場所を探してもらおうとしたら、急に逃げ出して……」 要は赤毛の能力を利用しようとした北の幹部が、赤毛に一杯食わされたというものだった。

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