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第7話君に拾われた日から
「勝手に事が進んでるみたいだけど、君は反論しないのか?」
「……………………」
何にも語ろうとしない赤毛は、俺の前に腰を下ろし、細い目でじっと見る。
「…………話しても仕方ない」
「俺が君の言い分を全て信じるかは、聞いてみないと分からない。けど、北よりは信用できると思うよ」
何故かその時、赤毛は俺に嘘をつかないという根拠のない自信があった。
赤毛と空間を共にして、同じ空気の元で暮らすことがごくごく自然で当たり前になっていた。
他の個体を自分のパーソナルスペースへ簡単に入れてしまっていることに驚いている。天涯孤児の俺は家族というものを知らないが、もし弟みたいなのが俺に存在したら、こういうのかもしれない。
コミニュティの部下達とも違う。2人の境界線があやふやな、自らの一部のような安心感が赤毛にはある。
「…………妹を逃がしたのは、俺」
「うん」
そうじゃないかと思っていた。
「北のヤツ、妹にウリさせてた。悪い客がこっちに近付いてて、教えたら死にたくないって。可哀想だった」
「悪い客って、まさか」
「ニンゲン」
狐は必要以上に人間社会へ関わらないようにするのだが、一定数闇に手を出す同族がいる。
うちのコミュニティでは特に禁忌として取り締まってきた。なぜなら『ニンゲン』と関わってしまったら、身の破滅、しいてはコミュニティ自体の破滅を招きかねないからだ。人間は残虐極まりなく、甘い言葉で誘ってから容赦なく狐を食いものにする。
妹はニンゲン相手に売春をさせられていた。美麗な子だったのだろう。兄は稼ぎ頭に逃げられて困っているから血眼になって探しているのだ。
「彼女をどこに逃がした?」
「知らない。金渡した……けど、ちょっと待って」
赤毛は静かに目を閉じ、眉間へ皺を寄せる。そして小さく丸まった。まるで胎児のように。
察知の能力を使っているところを初めて見た。彼の周りの空間が心做しか歪んでいるように感じられる。
「近くに……ってかこのコミュニティにいる。ははは、めちゃ近く。うん。紫色のおばあさんと一緒にいる。すごく穏やかだ。良かった」
ふわりと赤毛が笑った。胸が締め付けられるような切ない気持ちになる。
「紫のおばあさんには心当たりがある。よく当たる占い師だ。君と似たような能力を持っている仲間だよ」
「………彼女の行く末は任せる。俺はもう役割を終えたから」
「北に引き渡してもいいのか?」
「お前はそんなことしない」
「何を根拠に言っている」
「俺の直感」
何を赤毛が話しても彼を手元に置いておこうと決めていた。彼女に関しても引き渡す気は全くない。
見透かされたような彼の言葉に少し面食らった。
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