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26.湯けむりで目隠し 13

絶対に負けられるか! もしも負けてなんかみろ、東海林にぼろくそ言われるに決まっている。 せめて負けるにしても明らかな東海林のミスで負けなければ! 俺のミスなんて絶対にだめだ! そんな俺の気迫はなぜか相手チームの航にも伝染したのか、かなり白熱した試合になった。 結果はというと……。 ギリギリのところでなんとか俺と東海林の勝ち。 やっぱり修平は何をさせても上手いし、航だってそつなくこなす。 正直、ひやりとした場面は何度かあったのだが、何はともあれ勝てて良かった。 ホッとしたと同時に体の力は抜け、これで東海林に文句を言われなくてすむと思っていた。 ……が、しかし。 「修平くんごめんなぁ。最後にオレがミスしたから」 「航くんだけのミスじゃないよ。僕もミスしたからおあいこだよ」 相手チームは負けてもなお、お互いを称えあっているというのに……こっちときたら。 「千秋がミスしなかったら完全試合が出来ていた」 「な、なんだと!? 俺だけの責任かよ。完全試合って勝ってるんだからいいじゃんか」 「俺はもっとはっきり勝たないと気がすまない」 「お前って完璧主義者かよ。普段何でもま、いっかって言ってるくせに」 「勝負事は別。だから、ちょっと俺に付き合え」 そう言いながら東海林に首根っこを掴まれてずるずると引きずられていく。 「お、おい! 何だよ」 すると修平と航がやってきて、東海林の前に立ちはだかった。 「千秋をどこに連れて行くつもり?」 そう聞く修平の後に続いて航も焦ったような表情で「もうすぐ晩御飯の時間だよ」と言うけど、東海林はかけている眼鏡をカチャッと直すとニヤリと笑った。 「すぐに戻る」 それだけ言って俺を引っ張って行く。 「痛い、離せー」 「千秋が痛がってるだろ? 何をするつもりなんだよ」 修平が東海林の腕を掴むと、東海林は意味ありげな視線を流しながら薄く笑みを浮かべた。 「新藤ってさ、過保護だよね。そんなに千秋が心配?」 「千秋が嫌がってるって言ってるだけだよ」 「卓球の反省会やるんだよ。新藤には関係ないだろ?」 そう言いながら修平と航を掻き分け、アミューズメントフロアを後にした。 俺も精一杯抵抗したけど、こうみえて東海林は腕っ節も強いらしくかなわないし。 くそ、こいつは顔も怖い上に力まで強いのかよ。 でも、修平に心配そうな顔をさせてしまったのが悔やまれる。 せっかくの旅行なのに、東海林のクソボケカス!

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