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26.湯けむりで目隠し 16
「…………え? コ、コンドーム? ……ってまさか!!」
「まさかもなにも、コンドームはコンドームに決まってるだろ」
「い、い、嫌だ!」
「なんだよ、コンドームくらい買ったことあるだろ? あー、もしかしてお前って童貞?」
東海林は目を細めながら俺を嘲笑うような視線を向けて片方の口角をあげた。
「ど、ど、ど、童貞なわけないだろ!」
精一杯の虚勢を張るも……。
「なんだお前って童貞なのか。だったら練習と思って買って来いよ」
ニヤニヤ笑われてるのもムカつくし、なんか棒読みなのがさらにムカつく。
どうせ俺なんてはなから童貞に違いないとか思っていたんだろ!?
でも、失敗した。あまりにも焦ってしまったから、一番知られたくないやつに童貞と知られてしまった。
俺は焦って自滅するパターンが多すぎな気がして嫌になる。
「……なんで買ってこなきゃいけないんだよ」
すると東海林は足を組むと偉そうな格好で、当然とでも言いた気な表情で言った。
「千秋が旅館の浴衣で恥ずかしそうにゴム買うの面白そうじゃん」
「面白そうって、お前な性格悪すぎだ」
「そうか? 恨むならミスった自分を恨むんだな」
そう言って口元は笑っているくせに睨まれた(気がした)ので渋々コンビニへと向かっていく。
はっきり拒否できない自分が情けない。
……でも顔が怖いんだ。俺は蛇に睨まれた蛙だ。
「あ、薄いやつにしろよ。俺、0.03ミリより分厚いのとか嫌いだから」
しらねーよ。うるせーよ。
ゴムにそんな種類があるとか知らなかったけど、俺にはそんなことどうでも良くて無気力のままコンビニへと向かっていく。すると途中で同じような旅行者っぽい女の人とすれ違った。
「あそこに座ってる人格好良くない?」
「ほんとだカッコいい!」
そう言う女の子たちの視線の先をちらっと横目に見ながら、どこがだよ! って心の中で呟いた。
女の子たちの視線の先にはベンチに偉そうに座っている東海林がいるわけで。
俺にしたらあの怖い顔のどこがカッコいいのか理解できないけど、離れたところで見てみると無駄に目立つのは確かなんだよな。
たぶん大学で修平と並ぶとさらに2人とも目立つはずだ。
でもあの野郎はドのつくS野郎ときた。
おー怖っ。あいつは罰ゲームにコンドーム買わせにいくようなドS野郎だから危険ですよー、と心の中でその女子たちに忠告しながらコンビニに入っていく。
嫌だけどさっさと終わらせて早く旅館に帰ろう。
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