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26.湯けむりで目隠し 19

なんで浴衣の柄? って思いながら顔を上げようとした瞬間、聞こえてきた声は。 「コンビニ袋しか見てないなんて、闘牛の牛並だな」 東海林の声が聞こえてはっとする。 階段からバランスを崩した俺は東海林に抱えられすっぽりと胸の中に収まってしまっていた。 「お、お前っ! 離せ! な、なんでだ」 「なんでって倒れてきたのは千秋の方だろ」 「つか、離せってば!」 「お前ってさ、意外に腰細いんだな」 「うるせー! 離しやがれ」 「助けてやったんだからありがとうが先だろ?」 「助けてくれなんて言ってない」 いきなり腰を掴まれたのでじたばたともがいていると、後ろから聞き慣れた声が聞こえてきた。 「千秋!」 振り向くまでもなく修平の声だ! と思った矢先に、腕を引っ張られまたバランスを崩し今度は修平にもたれ掛かるような形になってしまう。 「どういうつもり?」 静かに響く落ち着いた修平の声に物凄く焦る。これは怒っているときの声だ。 「しゅ、修平! こ、これは……」 俺に怒っているんだと思っていたから、誤解だってちゃんと説明しなきゃ……と、顔を上げれば、修平の視線は俺ではなく東海林の方に向いていた。 「新藤こそなんで来たの?」 「2人の帰りが遅いから」 「本当に過保護だな。千秋って新藤がいないと何も出来ないの?」 「もう夕食の準備が整うから呼びに来ただけだよ」 また東海林がクスクス笑うのも気にすることなく、修平は「もうすぐお膳が運ばれてくるよ」と言いながら俺の腕を引いて歩いていく。 俺は後ろを気にしながら、東海林が少し離れて歩いているのを確認して俺の腕を掴んでいる修平の袖を軽く引っ張った。 「あいつとは何もないから!」 修平だけには誤解とかされたくない。 すると修平は俺を落ち着かせるかのように柔らかく微笑むと「わかってる」と一言だけ言った。 でも微笑んではいるけど、その顔にはいろんな感情が入り交じっているような、そんな想像ばかりしてしまって修平に掴まれた腕がじんじんするような気がした。

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