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26.湯けむりで目隠し 29
掴んだ修平の腕をぐっと引き寄せた。
「違うんだ」
俺がそう言うと修平がゆっくりと視線を合わせる。その目がなんだか哀しそうに見えてどきっとした。
自分の気持ちを言葉にするのはやっぱり難しい。
でも、ちゃんと言葉にしなければと絞り出すように声を出した。
「……あの、なんて言ったらいいかわからないけど……自分がイきたいから、修平に好きとか言うみたいで嫌だったんだ」
そう言ってちらっと修平の様子を伺うと、修平は何も言わずに俺のことを見ていた。
「お、俺は……そ、そんなの関係なく、好き……なんだし」
肝心なところで思わず俯いてしまったけど、掴んでいた修平の腕に力を入れながらなんとか最後まで言えた。
多分いつもの甘い雰囲気ならあの状況で好きって言えてた。それは雰囲気をより甘くすると思うから。
けど、いつもと明らかに違う雰囲気で好きって言ったら逆に何かが壊れてしまう気がしたんだ。
上手く言えないけど。
……つか、なんか改めて言うのってめちゃくちゃ恥ずかしいじゃねぇか!
でも一向に何も言ってこない修平が気になって恐る恐る顔を上げてみると、目が合った途端にみるみるうちに修平の表情が明るくなってクスクスと笑い声まで漏れ出した。
「千秋ってそういうとこ真面目だよね」
「な……なんだよ」
超真剣だったのに笑われたらなんか馬鹿にされているような気がして眉をひそめれば、修平は目を細めて俺の髪を撫でる。
「ごめんね。千秋」
「つか、なんだったんだよ。さっきの」
すると修平は珍しく拗ねたような顔をした。
「だって僕の千秋を連れて行くなんて東海林ムカつくじゃん。しかもコンドームまで買わせてさ。僕だってそんなこと、まださせてないのに。恥ずかしそうな顔は僕だけが見るものなのに」
「…………」
今、そんなことまださせてないとか言ったか? 気のせいか?
恥ずかしそうな顔は僕だけがみるものってなんだそれ⁉︎
まさか、東海林と友達な理由ってSっ気が合うとかじゃないよな?
類は友を呼ぶ的な……違うよな?
違うと言ってくれ。
すると修平は、はぁーっと息を吐くと申し訳なさそうな顔をして俺の頬に触れた。
「千秋を取られたみたいな気がして、僕もどうかしてた」
「東海林に取られるわけねぇだろ!」
「うん。ごめんね」
でも修平がまたいつもみたいに笑ってくれて安心する。
それだけで心が暖かくなるって不思議だ。
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