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26.湯けむりで目隠し 37

こいつはわかっているくせに、いつもこうやって俺に言わせようとするんだ。 「う、うっせーよ。お前ならわかんだろ!?」 「うん。わかるよ。でもたまーに、こうやって千秋をいじめちゃいたくなるんだよね」 「たまにだと!?」 俺が悪態つくも修平は笑いながら時計を確認して、俺の髪を優しく撫でた。 「名残惜しいけど時間だから。あがろっか」 え、もう? 思わずそんな顔をしてしまった気がしたから慌ててかぶりを振る。 なんとなくガッカリ…………なんかしてないんだからなっ!! 修平はもう一度風呂場を汚していないかチェックして、生々しい使用済みゴムを持って風呂から上がった。 ────── ───… 「もっと千秋と2人きりでいたかったな。やっぱ60分は短いね」 俺もそう思ったけど、なんか同意するのが恥ずかしくて黙々と浴衣を着ながら、 「明日帰ったらまた2人きりじゃん」とかちょっと素っ気なく言ってしまった。 本当は俺だって同じ気持ちなのに、また素直になれない。 せっかくの旅先なんだから素直に甘えたいくせにな……。 そうだよ。せっかくの旅先だから。 旅行中くらい素直になってもいいじゃないか、って自分に言い聞かせて行動に出てみようか……。 でも普段からこうやって甘え慣れてないから、修平にしてみれば突飛な行動に見えたかもしれない。 修平が扉に手をかけようとしたとき。 「もう出なきゃいけない時間?」 そう聞くと、修平が時計を確認して微笑んだ。 「正確にはあと3分」 と修平が笑って言ったから、思い切って修平に後ろから抱きついてみた。 「千秋?」 「黙ってろ。旅行サービスだ」 旅行サービスって何だよって心の中で自分にツッコミを入れながら修平に抱きつく力を強める。 たぶん旅行に来たっていう、いつもと違うシチュエーションが大胆にさせているんだと思う。 でも抱きついていたら、自然とキスがしたくなった。 さっきあんなにキスしたのに、どんだけしたいんだよ、俺! でも、旅行サービスついでにこれも言ってみることにする。恥ずかしいけど。 「……なんか、俺。キスし足りねぇ……気がする」 すると修平が俺の方を向いてふわりと抱きしめた。 「今日はどうしたの? そんな可愛いこと言われたら、我慢できなくなるじゃん」 「だって……」 せっかくの旅先だから素直になろうってちょっと思っただけだ。

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