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26.湯けむりで目隠し 39
しばらく顔を冷やしてから部屋に戻ると、部屋にはきっちり4組の布団が敷いてあった。
誰も戻ってきていないのかと思ったら、窓辺の広縁 にある椅子に座って夜景を見ながら東海林が酒を飲んでいた。
こいつどんだけ飲むんだよ!!
東海林は俺たちが部屋に入ってきたのに気づくと振り返る。
「バーに行ったんじゃなかったっけ?」
「行ったけどな。ウザイ女の客ばっかですぐに帰ってきた。なんだ? お前らは仲良く風呂か?」
ノンフレームのメガネ越しの視線は心の奥まで見透かされているような気がしてやっぱり苦手で、俺は一瞬ドキッとしてしまったんだが、さすが修平は動じることなく冷静に「そうだよ」と答えていた。
そっか温泉に来たわけだし風呂に入るなんて、普通じゃん。
さっきだって4人で入ったわけだし。
そうか、そう言えばいいのか。
なんて感心していると航も部屋に戻ってきたみたいだ。
「あー! いい湯だったぁ!! あージョージくん一人で晩酌? オレも混ぜてよ~」
航が帰って来た途端場の空気が一気に明るくなると、航は東海林の向かいの椅子に座り東海林から缶ビールを貰っていた。
「お前も風呂行ってたの?」
そう東海林が航に問いかけると、航はビールを飲みながら頷く。
すると東海林は、何か面白いことでも思いついたかのようにニヤリと笑うとまた俺たちのほうに視線を移した。と言ってもその視線は修平に投げかけられているようだった。
「佐々木も風呂に行ってたのに、お前らだけは別行動だったってわけ?」
すると航も飲み物を口にしながら俺たちの方を見る。
「そーいえば、あとから来るって言ってたもんなぁ。でも会わなかったな」
にこやかに笑いながら言ってくる航とは対照的に、何か企んでいるように見える東海林は気味が悪い。
なんだ? 東海林は何か知っているのか?
俺たちのことを疑っていたりするのだろうか?
自分が名指しで聞かれたわけでもないのにドギマギしてしまう。
きっとこれが俺に対する問いかけだったらまた自爆していたに違いない。
でも、修平は冷静だった。
「3つも大浴場あるからね、会わなかったんだよ。航くんは何の湯?」
れ、冷静だ……さすが修平。
やっぱり俺が修平くらい返しが上手かったら、航に恥ずかしい事実がばれることはなかったんだよな……。なんてしみじみ思ってしまった。
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