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26.湯けむりで目隠し 40
すると航は屈託のない笑顔で修平に答える。
「オレは一の湯。金色の格子天井見てたらセレブになった気分で良かったからさぁ。修平くんたちは?」
そんなこと言われても貸切にいましたとか言えないし……。
修平は何て言うんだろうと思って横目でみていると。
「三の湯だよ」
おぉ! 堂々と嘘ついた!!
俺が密かに驚いている横で修平と航の話はさらに進んでいく。
「三の湯かぁ、もみじのとこだよね」
「そう、夜はライトアップされていて綺麗だったよ」
にこやかに修平が言うと、航の表情がぱぁっと明るくなった。
「マジか! ライトアップってめちゃセレブっぽくね? オレ、もう1回入ってくる」
そう言って用意を始める航に東海林が「湯あたりするぞ」なんて言ってたけど、俺は別の意味でそれどころじゃない。
ライトアップって何? そんなんされてるの!? 昼間しか見てねぇから、ライトがあったかどうかもわからねぇし。もし航が行ってそんなんなかったら嘘ってばれんじゃん!
すると焦っている俺に気がついたのか、修平は東海林に軽く背を向けて俺にしか見えない角度で微笑みかけた。そしてその口元は「だいじょうぶ」と声なく動く。
そして航が出て行くと、東海林が缶ビールを差し出してきて俺たちにも飲むかと聞いたので、俺はもちろん飲まないんだけど修平は1本受け取ると、航が座っていた場所に座った。
自分はさっき修平が買った炭酸飲料でも飲もうと思ってペットボトルの蓋を開けながら何気なく広縁の方を見ると、さっきは気づかなかったが東海林の前にあるつまみが目に入った。
あれって、俺が買ったお菓子じゃん!! 何、勝手に食ったんだよ⁉︎
「おい、東海林! それ俺が買ったやつじゃん」
「あ、こういうときは“東海道”って言わないのな」
「うっせ、東海道! それ俺の」
「千秋の罰ゲームで俺が買わせたのだから俺のもんだ」
「なんだとー! 買わせたから俺のものって!? 何様のつもりだ!」
「俺様だ」
わーわー言い合いしていると忘れ物をしたという航が帰ってきて、どこをどう見て勘違いしたのかわからないが。
「何? 何? 楽しそう! 枕投げでもするの?」
「しねーよ!! なんでそうなるんだよ」
そんなこんなで、初の高級老舗旅館での夜は更けていった。
わりと遅くまで東海林と修平は起きていたようだけど、窓側から東海林・修平・俺・航の順番で布団に入って眠ったのだ。
高級旅館の布団ってだけでふわふわな気がして、いい夢が見れそうな気がした。
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