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26.湯けむりで目隠し 41
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次の日、何やらドンと鈍い衝撃が頭に伝わり目が覚めた。
「いってー、なんだよ」
起きてみると、ちゃんと並んで寝ていたはずの航が俺の枕元で横向きになって寝ていて、足が俺の枕の上にあった。
こいつ蹴りやがったな。つか、どんだけ寝相悪いんだよ。
頭は痛いし少しむかついたので、軽く航をぶん殴ると「あー! ぶつかるー! うわー」と言いながら飛び起きてきた。
そしてキョロキョロすると、呑気にあくびしながら俺におはようと言う。
「さっき何かがぶつかる夢見たんだ。夢って痛くないっていうけど、痛い夢もあるんだな~」
さっき俺が殴ったところをさすりながら言う航を見て、ちょっと航が抜けててよかったと思った。
時計を見ると朝食まで時間があるし、修平も東海林もまだ起きる気配はないので航と2人で朝風呂に入ることにする。
朝の紅葉もきれいだろうなと話しながら三の湯に来てみれば、同じようにおじいさん2人組が朝風呂に入っていた。
こんなに温泉を堪能したのは初めてかもしれない。
朝の紅葉を楽しみ、朝食の時間もあるから軽く温まったとこであがって、すっきりした気分で浴衣に着替えていると航がボソッと呟くように言った。
「なんかさ、オレ。気が利かなくてごめんな」
「何が?」
「いや、オレはさ修平くんと千秋が付き合ってること知ってたのにさ。うまくできなかったよな……と今更ながら思って」
急に改まってそんなことを言われるとちょっと驚いてしまう。
「別に俺はそんなことして欲しいとか思ってなかったよ」
「そっか、それならいいんだけど。オレ、あんまり空気読めないから」
「それは否定しない」
「いや、そこは否定するとこだろ。友情で否定してあげるとこだろ」
「わけわかんね」
航も気をつかってくれてたんだなと思うとちょっと擽ったく思えて、2人して笑いながら今日行く紅葉スポットの話なんかをしつつ部屋に帰る廊下を歩いていると、航が今度は突然「あぁ!!」と大きな声を上げて立ち止まった。
「な、なんだよ、いきなり。ビックリするだろ」
「ごめん。……いや、オレもしかしたら、もしかしなくても修平くんにめちゃくちゃ怒られるかも」
「なんで」
「だって千秋と風呂に入ってしまったから」
「アホ」
いきなり叫ぶから何を言いだすのかと思いきやそんなことか!
そんなの昨日も4人で風呂入っただろうが!
軽く呆れながら部屋の前まで戻ってくると、出てくるときは閉めてきたと思っていた内扉が少しだけ開いていた。
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