今俺の頭の中で渦巻いている感情やら憶測やらが俺の心を蝕んでいく。 何思ってんだ。有り得ないのに。何をショックなんか受けてんだか。 自分がショックを受けている理由も、そんなショックを受けるような事ではないってこともわかっているはずなのに、なんでこんなにも気持ちが重いんだ。 俺、すっげー女々しい。 自分の思考にうんざりして血の気も引いていく。 少し頭を冷やしてこよう。朝食までまだ時間はある。 少しだけ考えたい。 少しだけ頭を整理したい。 俺は馬鹿だからゆっくり考えないとわかんないんだ。 だから少し……少しだけ……。 そう思いながら歩いていると、最初はゆっくり音を立てずに歩いていたはずなのに、いつの間にか早足になって、仕舞いには小走りになってしまったところで後ろから腕を掴まれた。 「……待って、千秋」 振り向くと心配そうな顔をしている航がそこにいた。 そのまま2人で旅館のロビーのようなとこまで来て、高級感漂うソファーに並んで腰掛ける。 「…………」 しばらく俺が黙っていると沈黙に耐え切れなかった航が俯いたまま声を発した。 「きっと何かの間違いだよ」 「……そうやってさ、フォローするってことは、航も怪しいって思ったってことなんだろ？」 「いや、違……ッ」 あ、俺って最低だ。気を遣って言ってくれているのに、モヤモヤした気持ちをそのまま航にぶつけるなんて。 「悪い。……わかってる。俺もちょっと驚いただけだ」 「オレもごめん。言い方が悪かったよな」 「航は悪くないよ」 八つ当たりしてるのは俺の方なんだから。 そしてまた長い沈黙が続く。 その沈黙を破ったのは今度は俺のほうで。 「なぁ、東海林ってさ修平のこと好きなのかな」 「え？」 「……なんとなくそう思って」 「でも、ジョージくんは自分で女好きって言ってたよ。だから違うと思う」 そう言う航も心なしか弱々しい物言いになっていて、実際は俺だって東海林が修平を好きとか思ってない。 無駄にショックだったのは、滅多に心を開くことのない修平が、東海林に笑いかけていたことだ。 あんなに柔らかく。楽しそうにしてた。 たったそれだけと言えばそれだけなのに、なんかザワザワする気持ちは大きくなるばかりだった。