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第27章 水面にひとつ 1
──それから穏やかに月日は流れていった。
正月休みも明け、大学2年生ももうすぐ終わるんだなと思っていたそんなある日。
家でゴロゴロしていたら修平がコーヒーをいれてくれると言ったので、ダイニングの椅子に座って待っている。
キッチンからはコーヒー豆の良い香りが漂ってきた。俺のバイト先の店長がくれた豆を修平がミルで挽いてそれをフィルターにセットしてお湯を注ぐ一連の流れはいつ見ても楽しい。
そしてその様子を見ているとカップを持ち上げた修平と目が合う。
「どうかした?」
「いや、別に」
「そんなに見つめないでくれる? 照れるから」
にっこり微笑みながら言う表情は照れるなんて感じさせないくらいに余裕があるように見えて、逆にこっちの方が恥ずかしくなりそうだ。
「み、見てねぇだろ!!」
焦って目を逸らすと修平はクスクス笑いながらカップを俺の目の前に置いた。
少し前まで感じていたモヤモヤは、また修平と2人暮らしという普段の生活を送っていると次第に小さくなっていった。
一緒に正月を過ごし、成人式に出席するために地元に帰って久しぶりに内川や塚本にも会った。
相変わらず塚本はBL好きだったが、今まで何かあればノートに書いていたのに、ボイスレコーダーに録音したり電子メモなる新アイテムまで取り入れるいう進化をとげていた。
そして、久々に帰った実家では、勝手に俺の部屋を樹が占領していた。
咲良の方はなんだか洒落気付いてやがったから彼氏なんか出来てないだろうなとしつこく聞いたら、喋ってくれなくなって軽くヘコんで、修平が来ると愛想良くしてる咲良を見てまた軽くヘコんだ。
何も変わらない。
修平はいつもと変わらないし、俺に甘いのも変わらない。
そうやって日々を過ごす度に、安心していく自分がそこにいた。
やっぱり、旅行っていう非日常的な空間が余計なことを考えさせたのかな。
思ってみると、そんなことで悩んでいた自分がバカみたいだ。
「千秋? どうかした?」
「えっ?」
「なんかぼーっとしてたから」
そんな正月休みを思い出していたら修平が目の前に座って俺の顔を覗き込みクスクスと笑った。
そしてコーヒーをひとくち飲むとカップをテーブルに置く。
「あのさ、また今週の土曜日に実家に帰ってくるよ」
「そうなのか? なんか用事でもできたのか?」
「うん。ちょっと姉貴とね」
修平はこの1年くらい何度かひとりで帰省していた。
「わかった。泊まりだな」
「ううん。夜には帰ってくるよ」
決して日帰りが楽な距離ではないから泊まればいいのに、修平はほぼ日帰りで帰ってくる。
「いつも思うんだけど、日帰り辛くね? 泊まってくれば」
「僕ね夜は千秋が一緒じゃないと、うまく眠れないんだ」
なんてにっこり微笑まれて言われたら、思わず顔が熱くなってしまう。
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