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27.水面にひとつ 7

部屋に入っていくと、キッチンに立っていた修平が振り向いてにっこりと笑った。 「おかえり。今日は寒かっただろ?」 「うん」 「だから今日は鍋にした」 修平はいつもと変わらなかった。 だから東海林から聞いたことを聞こうか、……すごく迷う。 東海林が言ってたことは本当? 大学院行くの? って、聞けばいいだけのことなのに、もし面倒くさいとか思われたらどうしようとか、そんなことまで考えてしまって俺は弱気になっている。 それに、このことはやっぱり修平の意思で俺に伝えて欲しいとも思っていて、自分から問い詰めて聞きたくないっていうのもあった。俺って本当にわがままだ。 そんなことを色々と考えてしまって黙っていると、修平がなんだが心配そうに俺の顔を覗き込んだ。 「どうしたの? 鍋、嫌だった?」 「そんなことねぇ。食おう!」 俺が笑ってそう言うと修平は目を細めて頷き、またキッチンに戻ってコンロに火をつける。 そして鍋を火にかけると嬉しそうな顔をして振り返った。 「千秋の誕生日もうすぐだね。二十歳だから盛大にお祝いしないとね」 修平が笑っているととても嬉しい。 それと同時に自分の誕生日を祝ってくれるという修平の笑顔を見ていると、何モヤモヤしてんだって思った。 もうすぐ二十歳だ。そう思った瞬間に少し心の霧が晴れるような感覚があった。 俺はもうすぐ二十歳の誕生日を迎える。 そうだ、それを機にこんな子供っぽい自分からも卒業して大人になろう。 そして、きっと変われるって思ったんだ。 二十歳の誕生日は、いつもの誕生日と同様に日付が変わる瞬間にお祝いするから楽しみにしててと修平は言っていた。 誕生日なんていつもと一緒だと思っていたけど、なにやら俺以上に俺の誕生日を楽しみにしてくれている修平の姿を見て、俺自身も二十歳を今まで以上に特別に感じ始めて、いつの間にか凄く楽しみになっていた。 もう東海林のことを気にするのはやめよう。 最近、ネガティブになりすぎた。 あ、きっとあれだ。ラストティーンだからだ。 そんで、ちょっとセンチメンタルになってるだけだ。 きっとそうに違いない。 大人になるっていうのも切ないものだな。うん、そうだ。 ────でも、その3日後。 修平が悲痛の表情で俺の目の前に座っていた。

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