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27.水面にひとつ 8
「…───単位が絡んでるならしょうがねぇじゃん」
そう言っているのに、修平は難しい顔をしたまま黙っている。
そんなこと言ったってしょうがないことなのに。
「だから、単位が絡んでんだから行って来いって」
「……行きたくない」
「お前な、単位もらえなかったら困るだろ!」
「どうにでもできる」
「またそんなこと言って……」
俺と修平が何で揉めているのかというと……。
それは修平が帰ってきた数時間前にさかのぼる。
修平は帰ってきたときから悲壮感漂う最悪な表情だった。
何事かと思ってみれば、3年からの必修ゼミのゼミ合宿に新3年も顔合わせを兼ねて急遽参加しなければならなくなったのがそもそもの原因なのだけど、どうして修平がこんなにも行きたくないと言っているかというと……。
その日程が1月31日からの2泊3日だからだ。
修平は難しい顔をしたまま拗ねたように俯いた。
「だって行ったら千秋の誕生日を午前0時に祝えないじゃないか」
「だから! 必修なんだろ? 仕方ないじゃん。2日には帰ってくんだし良いって」
修平はゼミ合宿から帰ってくる日が俺の誕生日で、0時ピッタリに祝えないから行かないと言って聞きやしない。
俺は誕生日に戻ってくるわけだから良いって言ってんのに、修平はさっきからどうやったら休めるかばかり考えている。この話だってもう何回目だ⁉︎
「お前な、いい加減にしろよ! 俺のせいで単位もらえないとか嫌だからな」
「単位落とすとかそんなヘマはしないよ」
「そういう問題じゃねぇよ。そんな風に俺のために大学休むとか嫌だって前から言ってるだろ!!」
「でも、僕にとっては何より大事なことなんだ」
そんな風に真剣な顔をして見つめられると、こっちは怒ってるのに思わず目を逸らしてしまう。
修平は俺を中心に物事を決める節がある。そりゃ俺のことを何よりも優先してくれるのは嬉しいけど、全部それでいいってわけないじゃん。
「修平! いつも言ってるけど、お前に不正を働かせるのは本当に嫌なんだ!! だから、つべこべ言わずにしっかり単位取ってきやがれ!」
がっかりしてるのは俺だって同じだ。
そりゃ前日からいつものように一緒にいたいに決まってる。
二十歳の誕生日なんだし、日付が変わった瞬間に一番に祝って欲しいさ。
でも、しょうがないじゃん。
必修なんだし、ゼミ合宿なんだし、遊びに行くわけじゃないんだから。
それから説得を続け、修平は最後まで不満気だったけど渋々合宿に行くことを決めた。
つか、行って当然だ。必修ゼミなんだろ。
俺の誕生日って理由だけで休もうとするなんて、本当に修平はぶっ飛んでる。
でも、そう思ってくれたことは正直嬉しかった。
だから勉強しに行く修平を快く送り出せたのかもしれない。
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