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27.水面にひとつ 9
──1月31日。
「ゼミ合宿って発表会もあるんだろ? 頑張って来いよ!」
「僕たちは見てるだけだよ」
「しっかり勉強して来い! そんでがっつり単位もらってこい」
俺がガッツポーズをすると修平は目を細めながら軽く笑って頷いた。
「そうだね。頑張ってくる」
ゼミ合宿は大学の研修施設が郊外にあり、そこで行われるらしい。金曜日である今日は授業を終えたものから順にその施設へと向かうのだそうだ。
修平も大学での授業を終えて、一度帰ってきてからもうすぐ出発する。
2泊3日分の荷物が入ったかばんを一旦床に置くと、玄関で修平が俺のことを抱きしめてきた。
「一緒に暮らし始めてこんなに離れるの初めてじゃない?」
「はぁ? そうか?」
「そうだよ。……寂しくない?」
「な、なに言ってんだよ。大袈裟だなぁ。たった2泊3日で寂しいわけあるか! もうすぐ二十歳なんだぞ」
「……僕は寂しいな。隣に千秋がいないから。ちゃんと眠れるかな」
耳元で囁くように放たれる声は、頭の中に直接響いて自分の顔がカーッと熱くなっていくのを感じた。
「お、俺はお前の抱き枕じゃなねぇよ」
俺がそう言うと、修平は微笑みながら俺の頬を包むように触れて、そのまま顔を近付けた。
やわらかい感触が唇に伝わる。
そしてその感触が離れると、修平は鼻先を突き合わせたまま俺のことをじっと見ていた。
「……やっぱり行きたくない」
「お前なぁ……」
「わかってるよ。ちゃんとするって約束したから行くよ。その前に千秋を補給させて」
チュッと軽いリップ音が響くとまた吸い付くように唇が合わさって、軽く下唇を甘噛みされたかと思うと、熱い舌先が俺の口内に侵入してきた。
「……ンッ……っ」
絡められ、歯列をなぞると、角度を変えながらキスをする。
根元を扱かれるようにされた後、先端部分を舐め上げられて、びくっと腰が思わず跳ねてしまうと更に強く抱かれて、舌に軽く歯をたてられた。
そのまま甘く絡まるようなキスに気持ちよくて力が抜けそうなその瞬間、舌先が唾液の糸を引き修平が名残惜しそうに顔を離した。
「もう行く時間か……」
「お、おう。……いってらっしゃい」
「行ってくるね。また夜に連絡するから」
修平は荷物を持ち上げると、また俺の唇に軽くチュッとキスを落とし手を振って部屋を出て行った。
そして俺はというと、修平を見送りドアが閉まった瞬間にぺたんと床に座り込んでしまった。
修平のやつ、めちゃくちゃ濃厚なキスを出かける前にしていきやがって。
今、多分すげー顔が赤いと思う。
出かける前にあんなのは反則だ!
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