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27.水面にひとつ 12

もしそうなら無理して電話に出させてしまったのかもしれない。 「ごめん。まだ勉強中だったんだな。邪魔して悪い」 『うーん、いや……あのね』 なんとなく歯切れの悪い修平の言葉が気になりつつも、忙しいなら切ろうと思ったとき、また遠くから修平のことを呼ぶ先輩らしき人の声が聞こえてきた。 でもそれはディスカッションとは少し違うような、そんな違和感に思わず耳を澄ましてしまう。 そうしているとほかに耳に入ってくる人の声も、周りの騒々しさも、どうやらディスカッション中というわけではなさそうで、どちらかと言えば飲み会のような。 「……修平。今、何してんの?」 『うーん、いや……』 するとやっぱり修平の様子は少し変で、飲み会ならそう言えばいいのにその歯切れの悪い言い方に少しだけ苛々していると、また遠くから声が聞こえてきた。 『新藤くぅ~ん、どこ行ったのぉ?』 今度の声は明らかに酔っ払って甘ったるい声を出す女性の声だった。 やっぱり飲み会じゃん。 おそらく新3年の歓迎会的な飲み会なんだろう。 まぁ、人が集まれば飲み会になるものだし、修平も飲み会なら飲み会って言えばいいのに。 悪いことしてるみたいに歯切れ悪くなりやがって、俺はそんなに心狭くねーよ……って思った矢先。 静かに聞こえてきた声で、突然自分の意識がガラッと変わってしまうのを感じた。 『新藤、こんなとこで何してるんだ。早く来いよ。教授が呼んでる』 些細なことだ。 本当に笑ってしまうくらい些細なこと。 修平のことを呼ぶ先輩らしき人の声や、酔っ払った女の人の声でも何とも思わなかったのに、その声を聞いただけで自分の中の張り詰めていた何かがプチッと音を立てて切れてしまうのがわかった。 どうしてだろう。 ……東海林の声だけは我慢できない。 さっきまで修平のことを呼んでいた人たちのように大声を張り上げることもなく届くその声で東海林が修平の傍にいることは明確で。 いや、同じゼミ合宿に行ってるんだから近くにいるのは当たり前なんだけど、自分は今どう頑張っても手が届かないのに東海林は手を伸ばせば届く距離にいるんだとか、訳わかんないことまで考えてしまって……。 気づいたら頭に血が上ってしまっていた。

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