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27.水面にひとつ 13
『ごめん、千秋。また後で掛け直す……』
修平がそう言い終わる前に、考えるより先に言葉が出てしまう。
「何だよ……勉強とか言って結局、飲み会かよ……」
『千秋?』
どんどん冷静さが欠けてきて、次第に強い口調で怒鳴るように言ってしまう。
「わざわざ泊りがけでよ。こっちは難しい勉強してんだって思ってたから、我慢してやってるのに!」
『あのさ……』
落ち着け。落ち着けって心の中では警告音が鳴っているのに、溢れ出てくる棘のある言葉はどんどん俺の口からこぼれ出てしまって、なぜか留めることが出来ない。
「楽しいだろうな。気が合うやつと一緒にいたらさ、そりゃそうだよ!」
『千秋、ちょっと……』
修平が何かを言う前にどんどん言葉が出てきてしまって、仕舞いには。
「もういい!! 好きなだけ東海林と飲んでろ!」
そう言ってこっちから乱暴に電話を切ってしまった。
電話を切った後、我に返った途端に後悔が押し寄せてソファにもたれかかり深いため息を吐き出す。
俺、最低だ。
言わなくてもいいことを言ってしまった。
ゼミ合宿だって朝から晩まで研究とか勉強するわけねぇじゃん。
飲み会だってあるだろ。普通じゃん。わかってるのに。
言葉を心に折り込む前に口から出てしまっただけでなく、それもあんな風に傷つけるような言い方をしてしまうなんて。
謝るためにすぐに電話をかけ直そうと思うも、怖くて通話ボタンが押せなくてそのままソファにスマホを投げ付けてしまう。
気にしないようにしてたつもりだったけど、俺の心の中ではずっと東海林のことを気にしてたんだ。
それで修平に当たるとか……最悪だ。
我慢してやってるなんて、そんな恩着せがましく思ったことなんて一度もないのに。
俺は馬鹿だ……。馬鹿すぎる。
そう思った矢先に、携帯の着信音が鳴った。
とっさに修平が掛け直してきたんだと思って、慌ててスマホを手に取りディスプレイも確認せずに電話に出た。
「修平、さっきはごめん! 言いすぎた」
でも返って来た声は修平ではなくて……。
『……千秋? どうかしたの?』
「あ、…───なんだ、航か……」
『なんだ、航か。って言われると傷付くんですけど』
「ごめん。どうかしたのか?」
俺が尋ねると、また航はいつものような明るい調子で話し始めた。
『いや、修平くんいなくて寂しがってないかなっと思って』
「俺は留守番してる小学生か!? 大きなお世話だよ」
『でも、さっき修平くんに謝ってたけど。何かあった?』
「あー…まぁな……」
それでまた俺は無意識にため息をついていた。
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