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27.水面にひとつ 15
「……誰にだよ」
わざとそんなことを言ってみた。
「誰でもいいんだよ。あ、酔っ払ってるオレなんかだったら明日まで覚えとく自信ないしオススメ」
「なんだそれ」
すると航は飲み物を手に取ると、ニッと歯を見せて笑った。
「誰かに話したら楽になることってあるじゃん」
普段だったらこんな弱気な姿を人に見せたくないけど、でも今日はなんとなく航に影響されて気分だけは酔っ払ったような気持ちで、自分でもびっくりするくらい素直に心が開いていた。
きっと誰かに聞いて欲しいって気持ちがあったんだと思う。
すげーネガティブなのに言ってもいいのかなって躊躇すると、航がいつものように肩を軽くポンポンと叩いた。
「大丈夫。オレは明日になったら覚えてない」
それは航の優しさだってわかってた。
でもその優しさがとてもありがたい。
「うまく言えないけど。最近、なんか不安っていうかさ……」
「修平くんのこと? 浮気とか?」
「いや、浮気とかそういうのは心配してない」
「じゃあ、何?」
航は飲んでいた飲み物をテーブルに置くと、俺の方に体を向きなおして座った。
「俺さ、付き合ったのって修平だけなんだよ。今までフラれ続けた話したろ? だから恋愛も初心者みたいなものだし、修平みたいにカッコよくねぇし、モテねぇし、それに童貞だしさ……とにかく俺でいいのか…とか、思ったり……して、色々考えちまう」
思ってたことをそのまま口に出してたらかなり支離滅裂になってしまった。
でも言葉に出せば出すほどに、俺って何回こんなことで悩むんだろ……って、心底嫌になった。
なのに航と来たら。
「童貞とかって関係あんの?」
なんて、こっちは真剣に悩んでいるのにケロッと言い放ちやがってムカつく。
「お前は童貞じゃないからわからないだけだ!」
「そんなもんかね?」
「お前は童貞だった頃のまっさらな気持ちを忘れてしまったんだ! 童貞じゃないのがそんなに偉いか‼︎ あぁ!?」
「千秋、落ち着けって」
つい熱くなってしまったことが恥ずかしすぎて、目の前にあるコーラを手にするとそれを一気飲みした。
「おぉ! いい飲みっぷりだな」と航は笑うとテーブルに肘をついて俺の方を見る。
「千秋が不安なのはわかったけどさ。千秋のこと好きになったのは修平くんの方からだろ?」
俺が静かに頷くと航はにっこりと目を細めて笑った。
「だったら心配することないんじゃないか? オレは修平くんがそんなに変わるやつだとは思えない」
「なんで俺、こんなに不安なんだろう。今までもこういう風に悩んだことあったんだ。でも、その悩みが解消されてもまた同じようなことですぐ悩んでしまう……俺ってすげー女々しくて嫌になる」
航は僅かに目を伏せると、珍しく静かなトーンで尋ねてきた。
「やっぱさ……ジョージくんのこと気にしてるの?」
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