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27.水面にひとつ 18

こんな時に限って、天の邪鬼な性格が邪魔をする。 素直じゃない性格が邪魔をする。 「さっきから修平は何そんなに怒ってるわけ? 怒ってるのはこっちなんだけど」 昨日、次に会ったら素直になって修平とちゃんと話をしようって思っていたはずなのに、修平の冷たい視線が向けられるたびに俺の表情も強張り、心は頑なに閉じていこうとする。 「それに、なんで帰ってきたんだよ」 「昨日電話したとき千秋の様子が変だったから帰ってきたんだ。あれから何度電話しても繋がらなかったし」 「俺の様子? 何だよお前は飲み会で楽しくしてたくせに」 「ゼミの親睦会だ。恒例だから断れないだろ」 明らかに不機嫌そうに言う修平の言葉に体が思わずびくっとなると、俺は更に攻撃的な言葉ばかり放ってしまう。 どうして俺はこうも言わなくていいことばかり言ってしまうのだろう。 でも止められなくて、このままじゃ本当にすれ違ってしまうって頭ではわかっているのに、口から出てくるのは言わなくていい方ばかりだった。 「恒例とか言って、電話した時俺に隠そうとしたじゃん」 「そんなつもりはないよ。千秋が勉強してるって思ってるみたいだったから言いにくかっただけだ」 「なんだよ! 俺のせいかよ」 「そんなこと言ってないだろ」 でも、俺の感情が爆発した。 「お前だって楽しんでたんだろ! 俺みたいに女々しいやつと離れられてさ!」 すると一瞬、修平の目の色が変わった気がした。 「千秋、それ本気で言ってるの?」 静かに放たれた言葉が俺の心に突き刺さる。 ……なんだよ。俺だけが悪いのかよ。 心の水面にひとつ、水滴が落ち波紋を広げた。 「……お前は言わなかったじゃん」 「千秋? 何のこと?」 「……俺だけが何も知らないんじゃん」 「だから何のことだよ」 ────もう、だめだ。 溜め込んでおくには限界だったんだ。 許容を超えすぎてダムが決壊するみたいにドロドロした感情が止めどなく溢れてくる。 「俺はお前のそういう“僕は余裕あります”みたいな態度が大っ嫌いなんだ! 1人だけ大人のつもりなんだろ。俺の保護者気取りか!」 「千秋、落ち着いて」 「俺なんか面倒だよな。頼りないしな、全部修平に任せきりだし。だから俺になんか何言っても意味ないと思ってるんだろ?」 「……何の話だよ?」 「ふざけんな。そりゃ東海林の方が頭いいもんな。お前のことだってわかってるだろうしな」 「どうして東海林が出て来るんだよ」 やっぱり俺は格好悪い。 これじゃ、癇癪をおこした子供みたいだ。 だから、修平は俺に何も言ってくれなかったのだろうか。 「俺に言ったって俺が理解できないだろうから、大学院に行く話もしなかったんだろ!? 東海林は知ってたじゃないか。付き合ってるのに、ずっと一緒にいたのに、俺は知らなくて。俺ばっかり就職したらとか考えて、卒業したら結婚するって浮かれて、馬鹿みたいじゃん。そんなに信頼してるなら、東海林と付き合っちまえよ!!」 頭に血が上った俺は修平を突き飛ばして玄関へ向かった。

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