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28.長いながい一日 2

航には心配ばかりかけている。 申し訳なく思いながら、ロッカーからエプロンを取り出した。 「……なんとかなるだろ」 「オレのせいだよな。……ごめん」 「別に航のせいじゃねぇよ」 そう言ってエプロンをすると俺は洗い場の方に向かった。 マスターが昼まで皿洗いをしたら昼飯を食べさせてくれるらしい。 微々たる小銭しか持ってなかった俺からすればありがたい話だ。 航に借りた服を着こんでもまだ寒気は取れなかったけど、やっぱり仕事とか何か打ち込むことがあると暗くならずに済むから、それから俺は皿を洗いまくったんだ。 *** そして、マスターとの約束の時間が終わり昼飯にありつけていると、水の入ったピッチャーを持って航がやってきた。 「なんかさっきより顔色悪い気がするけど」 「……うーん、床で寝たのは失敗だったかな」 「大丈夫か?」 「まぁ、なんとかなるだろ」 ってこのときは思っていたんだけど、昼飯を食べ終わった頃から一気に体調が悪化したというか午後から本格的に調子が悪くなってきた。 これ以上ここにいる方が迷惑を掛けることになりそうだったので、マスターと他のスタッフに声を掛け店を出る前に休憩中の航にも声を掛けた。 すると航がマスターたちに気づかれないように俺の手を引っ張って更衣室に連れ込む。 「なんだよ」 「なんだよじゃないだろ。これからどこに行くつもりだよ」 「……適当に」 「金もないくせにか?」 「じゃあ、金貸して」 「いや、オレも今は貸せる金持ってないんだけど。それに体調悪いんだろ? さっきよりかなり顔色が悪い」 図星だから言い返せずにいると、航はポケットからカギの束を取り出し、中から1本取ってそれを俺に渡した。 「これオレんちの鍵。行くとこないなら、うちに来いよ。あ、ちょっと待って。今、簡単に地図書くから」 そう言って更衣室においてあったメモ帳に簡単な地図を書いてそれも俺に渡した。 「このアパートの2階の右端の部屋がオレんとこだから」 「でも、悪いだろ」 「遠慮するな。オレもバイト終わって4時過ぎには帰れると思うし寝てろ。部屋の中のものは何でも勝手に使っていいし、とりあえず寝ろ。帰りに何か買って帰ろうか? 食べたいものは?」 「そんなに気を使ってくれなくていいから」 どうせどこにも行く当てはないし、どこかに行こうにも金がなかった俺は、有り難く航の厚意に甘えさせてもらうことにした。

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