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28.長いながい一日 8

焦った俺は思わず航を突き飛ばして後退りした。 「こ、こ、航!? な、なんで!?」 コタツで寝ていたはずなのにいつの間にかベッドの上にいるし、さっきのキスとか何なんだ。さっきのは全部航なのか⁉︎ どこまでが夢でどこからが現実なのかわからなくて混乱していると、俺が突き飛ばした拍子にぶつけた部分をさすりながら航が起き上がって来た。 「千秋って本当に酒弱いんだな。結構アルコール飛ばしたはずなのに」 「だから、なんで……つか、なんでお前裸⁉︎」 航は何故か上半身裸で、ジーンズも上のボタンだけ外した状態で履いていた。 「酔った勢いで千秋の童貞を奪おうと思ったんだけど。そんなにうまくはいかないか」 「は? ……はぁ──!?」 俺の童貞を奪うだって!? ……遅れて頭が理解するなり慌てて自分の体を確認すれば、俺はまだ服もズボンもちゃんと着ていた。 「未遂だから。それにこれだけは言っておくけど狙って玉子酒飲ませたわけじゃねぇよ。アルコールは充分飛ばしたと思ってたんだ」 「じゃあ、なんでこんな事になってるんだよ!」 「……千秋が泣いてたから…………つい、……出来心で」 「な、泣いてた⁉︎ な、なんでこんなこと」 「ここまでする意味は1つしかないと思うけど」 「わかんねぇよ」 すると急に航は真剣な顔つきになり、視線を落とした。 「……放っておけない」 「はぁ?」 そしてゆっくり息を吸い込むと顔を上げて俺を見る。 「千秋を放っておけない。……好きに、なったから」 航が? 俺を? 好きになっただって? 「……な、何言ってんだよ」 意味がわからねぇ。航は普通に女が好きだったはずだ。なのに、なんで俺!? まだ混乱したままだが、とにかくこの部屋から出なければと思って立ち上がる。 でも急に立ち上がったからか眩暈がしてふらつき航に抱きとめられた。 「まだ、熱あるんだから大人しくしてないと」 「そんな病人を襲おうとしたのは、どこのどいつだよ!!」 「襲おうとしたんじゃない! 襲われようとしたんだ!!」 「襲うかよ!!」 その手を振り払って玄関に向かおうとするが、航は俺の腕を掴み引き寄せる。 そしてそのまま抱き締められると、耳元で訴えかけるような言葉が降ってきた。 「……オレなら悲しませないし、不安がらせない。一緒にいてって言われたらずっといる。笑いたいなら笑わせるし、泣きたいなら泣き場所だって作ってやる。……それに、千秋の為なら、千秋を受け入れる覚悟もできている」 「……覚悟?」 「だから、オレは千秋に抱かれてもいい」 抱かれてもいいって……。 「航、何言ってんだよ」 胸を押し返して見た航の顔はいつになく真剣で、俺の肩にかかる手は心なしか震えていた。

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