560 / 622
28.長いながい一日 9
すると感情を高ぶらせ、今度は怒鳴るように声を張り上げた。
「修平くんは酷いじゃないか! 千秋はいくつ我慢すればいいんだ! いくつ言いたいことを飲み込めばいいんだよ!」
航がそんな大きい声を出したのを初めて見たから驚いて体がビクッと強張ってしまった。
「そ、それは、俺が素直じゃないから……」
「そうやってまた自分を責めるのか? オレだったら……」
俯く俺を見てか、航は言葉を止めしばらく黙ると悲しげな声で続けた。
「オレは千秋に我慢なんかさせない。だから……ここに、居て欲しい」
優しく抱きしめられて、その手は温かったけど声は少し震えていて、俺の心は色んな感情が混ざってグチャグチャになる。
「……こ、航」
「オレはさ、代わりでもいいよ。今は代わりでも何でもいい」
そう言いながら更に強く俺のことを抱き締めた。
同時に俺の胸は張り裂けそうなくらい痛くなって、航が冗談で言ってるわけじゃないことはひしひしと伝わっているから、だからこそ余計にちゃんと言わなきゃいけないと思った。
航は優しい。
優しいから、俺が居心地良いと思うようにしてくれるだろう。
実際に俺はここのところかなり航の優しさに甘えていたし、頼っていた。
でも、それは友達だからで。
それに、俺はさっき気付いたんだ。
いや、改めてわかった。
「…………ごめん。それはできない」
意識を失う前にも後にも、一番に浮かんだのは修平の顔だった。
さっき朦朧とした意識の中でうっかり航の首に手を回したり、キスに応えてしまったけど、それは俺の中でキスしたのも俺に触れたのも修平だったからだ。
向き合うのが怖くて逃げてきてしまったけど、やっぱり俺は修平が好きだし、修平に会いたいと思う。
それが俺の素直な気持ちだから。
そんな俺に悲しげな声が届いた。
「修平くんじゃなきゃ駄目なの?」
うんとゆっくり頷くと耳元で航が悲しそうに息を吐く。
「……オレが行かないでって頼んでも?」
「それでも出て行く」
そう告げると、俺を抱き締めていた手の力が緩まった。
そして顔を上げてみると航は今にも泣きそうな顔をしながらも笑っていた。
「やっぱ、オレじゃ……駄目なんだな」
無理に明るく努める航を見て、また胸が苦しくなる。罪悪感で押しつぶされそうになる。
この場にいることは、もう出来ない。
航の胸を押し返すと、「……ごめん」と言い残して、おぼつかない足取りのまま航のアパートから出て行こうとドアノブに手をかけた。
すると、ドアが開く直前に航が言ったんだ。
「千秋に謝りたいことがある……」
─────…
ともだちにシェアしよう!