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28.長いながい一日 10
航の言葉を聞いて俺はドアを開けて外に飛び出した。
外に出てみると空気は刺すように冷たくて、雪がチラチラと舞いはじめていた。
俺はふらふらしながらも自分の家に向かって足を進める。
でも来た道を戻ってきたつもりだったけど、なかなか方向感覚が定まらなくて、バイト先の近くのはずなのに見知った景色が見えてこないことに焦りながら、それでも足を止めずに進んだ。
早く帰りたいのに。早く帰らなきゃいけないのに。
***
『千秋に謝りたいことがある……』
部屋を出る前、航はそう言って話を続けた。
──千秋が帰った後くらいに修平くんが店に来たよ。
凄い焦ってたのか汗だくでさ、でもオレ……千秋の行き先は知らないって言ってしまった。ごめん。
修平は俺を探しに来てくれたらしい。
入れ違いになってしまったけど、バイト先に俺のことを探しに来てくれていたんだ。
探してくれていたと知り嬉しい反面、悲しげに笑った航の顔が不意に浮かんだ。
航があんなことを思っていたなんて気付かなかった。
本当に俺は自分のことばっかりだったんだなって、考えれば考えるほどに胸が痛む。
一気にいろんなことが押し寄せてもう頭がパンクしそうで、もう何もわからない。何も考えられなくなる。
知らぬ間に頬に伝っていた涙が外気に触れて、また一層寒さを感じた。
頭はまだクラクラする。
このまま帰れるのかな、俺。
雪とか降ってるし、航の家でちゃっかり自分の部屋着に着替えて寝てたからまた薄着だし。
凍え死ぬんじゃね。
しんしんと降る雪はうっすら積もり始め、笑えない冗談だって思った。
でも、どうせ凍死するなら……。
フラフラしながら歩いていると公園を見つけて、その傍にある公衆電話ボックスが目に入った。
最近は見かけなくなっていた公衆電話なのに、ここで見つけるなんて天の助けだな。
なんて思いながら、ドアに手をかけて中に入り受話器を上げた。
そしてポケットに入ってたわずかな小銭を入れて、プッシュボタンを押す。
押したのは、修平の電話番号。
迷うことなくボタンを押していく。
……修平の電話番号だけは覚えていた。
俺には忘れられない理由があったからだ。
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